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魔法のエッセンス

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 真美を何とか優子から引き離したいと思っても、見るからに、引き離すことができる雰囲気ではない、勝則以外の人が見れば分からないであろうが、勝則には二人の関係が分かっていた。
 男性恐怖症である真美が、優子に惹かれるのも無理のないことだということが分かるからだ。
 優子は、勝則の気持ちを知ってか知らずか、毎日相変わらずの生活だった。そこに真美が入り込んだとしても、優子自身の時間には、何ら変わった様子はなかった。
 そのことが、却って勝則に不安を与えたのだ。
 勝則の不安は、観察すればするほど深まってくる。しかし、少しでも目を離すと、自分の知らないところに優子が行ってしまいそうな気がして怖いのだ。そんなジレンマに囲まれながら、勝則は、自分がどうしていいのかを模索してみた。結局、出るはずのない答えを探して、堂々巡りを繰り返すことになろうとは、思ってもみなかった。
 堂々巡りを繰り返していると、ある程度の時期がくれば、爆発してしまうことに、まだ勝則は気付いていなかった。ただでさえ、観察している行為は、ストーカーのようである。どうすればいいのか、分かっていないのだ。
 ただ、ストーカーは、自分がストーキングしているという意識があるのだろうか?
 追いかけている相手に対して、
「自分はあなたのことを好きになってあげた」
 という押しつけのような考えがあるのではないか。もし、そういう考えがあるのだとすれば、誰かが指摘しないと、本人には分からない。
 警察も、何かあってからでは動かないので、誰も、ストーカー相手に助言する人もいないだろう。
「私はストーカーです」
 などと、自分から宣伝して回っている人はいないだろうから、よふど、その人のことを見ていないと、ストーカーかどうか分からない。普通の友達程度では、
「まさか、あいつがそんなことしていたなんて」
 と、ストーカー行為がまわりに知れ渡って、初めて知ることになるのがオチである。そう思うと、ストーカーというのは、分かりにくく、一番陰湿な犯罪なのかも知れない。
 本人に自覚症状がないというのは、警察で言えば、生活安全課関係の犯罪には多いかも知れない。自覚症状があれば、少しは違っていたかも知れないと思うのは、実際に捕まるか、ストーカーによって、露呈した感情を知らしめられなければ、分からないに違いないだろう。
 以前にもストーカーまがいの犯罪はあったのだろうが、そんなに目立っていない。犯罪が陰湿化してきているのが原因だろうが、そこまで精神が病んでいる人間を作り出したのも今の社会であるということも言えるだろう。
 勝則は、自分に自覚症状がないまま、優子に対して、ストーカー行為を繰り返していた。何かをするというわけではないが、陰湿であることに変わりはない。ただ、言えることは、心地よい状態になっていたことは事実で、ちょっとした助言で止めることができるようなストーキングではなかった。やはり、押しつけのような気持ちが先に立ち、その思いが、自分の中で心地よさを形成していたのだ。勝則のストーカー行為は、典型的な他の人と同じ行動だったのだ。後で感じたことで、
「他の人と同じだったなんて」
 という思いが口惜しさとして残った。
 本当はそんな問題ではないはずなのに、自覚症状のなさが生んだ、一つの悲劇なのかも知れない。
 ストーカー行為を知っている人は、誰もいなかった。真美もまさか勝則がストーカー行為をしているなど、思ってもいない。しかも相手が、自分の知っている女性、慕っている女性であるなど、思いもしなかった。
 では、なぜストーカー行為が露呈したのか?
 優子が自分で、警察に言ったからだった。
 ストーカーにプロがあるならば、勝則の行為はアマチュアもいいところ、素人でしかも初心者、優子が警察に通報して、簡単に、勝則の行為が露呈したのだ。
 初犯であり、反省も十分にしているということで、あからさまな罪には問われなかったが、その時の優子の態度を見て、勝則は愕然としてしまった。
 その時のことを真美は知らなかった。優子がうまく誰にも知られないようにしたからで、そのつもりだったから、警察にも通報したのだ。ストーカー関連で、警察が動いて、こんなに簡単に、犯人が捕まるということも珍しい。それだけに、観念した勝則には、ほとんど罰はなかったのだ。
 だが、優子が警察で、何をしたかというと、あたかも自分がその男のせいで、ノイローゼに掛かり、興奮状態であったという。
「私は、あの人のために、怖くて一人じゃいられないので、女の子の知り合いに泊まりに来てもらっているの」
 と、あたかも、娘になるはずの真美を利用して、自分がストーカーに怯えているかのように振る舞ったのだ。
 優子は、警察が真美にも事情聴取するということを分かっていたのだろうか?
 真美は、優子がストーカーに狙われていたことを、その時初めて知ることになった。だが、相手が誰なのか、そして、どんな被害にあったのかということは教えてもらえなかった。
 優子に聞くのも、気が引けた。
「なるべくなら私に知られたくないと思ったのかも知れないわね。危ないと思ったから警察に通報して、私が一緒にいることを言えば、警察も動いてくれると思ったんでしょうね」
 と、事情聴取にきた警察官には、そう答えた。実際に、感じたことをそのまま口にしただけである。真美の立場からすれば、それが一番正当な回答だったに違いない。
 真美は、ストーカーの存在を知って、さらに男性恐怖症に陥った。
 ちょうどいい機会なので、ここで勝則と別れようと思った。あまり勝則に対して、恋人らしいことはしてあげられなかったので、真美の方から別れを切り出すのは心苦しい。そう思っていると、
「俺、真美と別れようと思うんだ。理由は聞かないでほしい。すべて、俺が悪いんだ」
 額面通りに聞けば、まるで浮気をして、その償いに別れようとしているかのようだった。自分が浮気をしているのに、誰に対しての償いなのかと言いたくなるが、今回は、これこそ渡りに船ともいうべき、ベストなタイミングでの話だった。
「いいわよ。別れましょう」
 勝則も、真美から何を言われるか分からないと思っていただけに、アッサリと言われてホッとしたという気持ちと、若干の寂しさがあった。そして、その時の真美のアッサリとした対応に、何か不自然さを感じないではいられなかったのだ。
 別れというのも、悲しみを伴わないものもあるのだということを、二人は初めて味わった。しかも、二人とも悲しくない別れなど、最初から何もなかったのと同じではないだろうか。
 二人とも未練はない。
 勝則には、優子のような年上の女性が自分の好みだと分かり、真美には、彼の存在が自分をさらに男性恐怖症に拍車を掛けるのではないかと、間接的とはいえ、勘の鋭さが真美にはあるということの証明でもあった。
 優子は、ストーカー被害にあってから、少し変わったようだった。真美が泊まりに来て、最初の頃のように、妖艶な雰囲気が少しなくなってきたように思えたのだ。
 正面から見ていては分からなかったが、横顔は明らかに今までと違っていた。何が違うと言って、今まで優子の一番の特徴であった、
作品名:魔法のエッセンス 作家名:森本晃次