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魔法のエッセンス

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 と、喜びを表してくれた。お互いに快感を貪ってはいるが、頭の中は意外と、二人とも冷静になっているようだ。
「大丈夫?」
「ええ」
 何度目かの、大きな波を通り越して、身体は、すでに限界を示しているかのようだった。グダっとなった二人は、そのまま抱きしめ合って、お互いに何度も汗が吹き出しては、引いてを繰り返した身体に、今は、完全に汗は引いていた。
 優子が与えてくれた快感に身を委ねながら、睡魔が襲ってくるのを感じると、優子も同じように、すでに眠っているかのような表情をしている。それを見ると、真美も一気に眠くなり、そのまま爆睡してしまったようだ。
 目が覚めると、すでに優子は起きていて、暖かな部屋には、甘い香りが立ち込めてくるかのようだった。
 その香りは、タマゴを焼いている匂いだった。それに気づくと、香ばしい香りを感じ、それがトーストであり、最後にコーヒーの香りがしてくるのを感じた。
 家では父親の好みからか、日本食が多かったので、とても新鮮な気がした。
「あら、起きたの? まだ寝ていてもいいわよ」
 前日が金曜日だったので、今日は出勤しなくてもいい日だ。最初から、お互いに金曜日は意識していたので、慌てることはなかったが、時計を見ると、すでに十時を回っていた。家にいて、この時間まで寝ていたなど、学生時代にもなかったことだ。
「よほど心地よかったのね。本当に気持ちよさそうに寝ていたわ。そんなあなたを起すのは忍びないと思ってね」
 優子は、リビングから話しかけてくれた。
「ええ、私もこんな時間まで寝ていたことってなかったので、自分でもビックリしています」
 優子は、真美の家庭事情は分かっているはずなので、普段にはないゆっくりした気分を味あわせてあげようと思ったのだろう。優子は、食卓に料理を並べながら、何かのスイッチを入れた。すると、部屋に音楽が流れ始め、それがクラシックであることに気が付いた。朝のひと時にちょうどいい、明るいピアノ曲が、それほど大きくない音響で、流れてきたのだ。
「私は普段から、ゆっくり朝食を摂りたいと思っているので、朝はクラシックを流しているのよ」
「朝はゆっくりできるんですね?」
「そうね。比較的ゆっくりかも知れないわね。お花屋さんには、十時までに行けばいいので、九時過ぎまで家にいられるのよ。でも、夜は八時過ぎまでなので、夜はそうもしていられないわ」
 朝ゆっくりできるというのは、真美にとっては羨ましかった。というよりも、朝は食欲もなく、気が付けば出勤しているような毎日、落ち着きというのが、どこに存在するのか、よく分からない。
 優子の部屋を改めて見ていると、なるほど、確かに朝ゆっくりできるような造りになっているように感じる。ゆっくりしたいという優子の話を聞いたから、そう見えるのかも知れないが、優子の部屋を参考にしていれば、自分も朝が少しは落ち着いた毎日を送れるかも知れないと感じるのだった。
 昨夜からのことを思い出すと、顔が真っ赤になるほど、恥かしかった。だが、優子にはそんな素振りはまったくない。考えてみれば、優子の肌のどこが、中年だというのだろう。まるで二十代前半、自分の肌とピッタリくるのだから、年齢的に若く見えるのは、顔だけではなく、身体全体が若いのだった。
――このまま、ずっと一緒にいたい――
 食事の用意をしている優子を、布団越しに見ていると、身体を起すのが億劫に感じられた。ここは、食事ができるまで、優子の言葉に甘えるのが一番なのだと思っていた。
 布団の暖かさは、昨夜のままだった。優子がまだすぐそばにいるような感覚で、身体を起すのが億劫なのではなく、もったいないという気持ちが強いことに気付いたのだ。
 昨夜はずっと緊張が続いていたので、まったく部屋の中などを見る余裕もなかったが、よく見てみると、部屋が思ったよりも広く感じられる。実際の部屋よりも広く感じられるが、それはきっと優子の感性から来ているものではないだろうか。
 マンションの間取りなど、ほとんどどこも変わらない。部屋を広く感じるのであれば、広く感じさせる作為が、そこに働いているからだ。作為は意識的であっても無意識でも関係ない。ただ、そこに人の意識が働いていれば個性であり、その人の個性を理解していれば、部屋をどうして広く感じるのかということも、理解できるというものであろう。
 部屋は白を基調に、さほど奇抜な色は使っていない。目立つのは黒い色で、白が基調になっているから、黒が目立つのだろう。まるで、鍵盤の白と黒のようではないか。
 泊まることは最初から分かっていたので、家から持ってきたパジャマを着ているので、最初は、食事が出来上がるまで寝ていようかと思っていたが、部屋の様子を見てみたくなった真美は、そのまま身体を起して、リビングまでやってきた。
 さすがに光が差してくると、白が基調の部屋だと思っていたが、薄いピンクを感じるようになった。気にしなければ分からないほどの薄いピンクだが、慣れてくると、却って目立っている色に思えて、不思議な気がしてきたのだ。
 一緒に食事をして、ワインを飲んだ部屋。やはり、昨夜よりも広く感じる。よく見ると、部屋の壁にはいくつかの風景画が飾られていて、西洋の城が描かれているもの、森の中にある大きな池に浮かんでいる真っ白いボートが見えるもの、さらには、水平線の向こうから昇ってくる朝日、
――いや、沈もうとしている夕日なのかも知れない――
 三枚の絵が懸けられていて、それぞれに味があるように思われた。
――もし私が描くとすれば、この真ん中に描かれている池の絵かも知れないわ――
 描きやすさであったり、バランスというよりも、最初から完成している絵を見て、さらにそこから、実際の被写体を思い起こし、いかに描こうかと思った時に、さらにその時に描いてみたいと思ったのなら、その絵が自分の描きたい絵であることに間違いない。
 自分が絵を描いていた時期を思い出していた。
 絵を描いている時というのは、時間の感覚が別だった。集中していると言えば、それまでなのだが、集中して一時間を費やしたとしても、実際に感じた感覚は、五分も経っていないものである。集中して描いていたのを思い出そうとすると、かなり前のことを思い出しているようで、時系列に差異が生じてしまうのだ。
「絵を描いていると、時間の感覚がなくなってくる」
 という部員が他にも何人かいたが、果たして、同じことを言っていても、皆同じ思いを感じているのかどうか、分かったものではなかった。 優子と一緒だった一晩のことは、絵を描いている時と、似たような感覚に陥っていたのかも知れない。集中していたというよりも、一点に神経を集中させたという意味では、絵を描いているよりも分かりやすい感覚に思えてくる。相手がいることなので、感覚的には自分だけのものではないので、分かりにくいかと思ったがそうではないのだ。
 寝室は、薄いピンクが基調だったのは、年齢より若く見える秘訣のようなものがあるからなのかも知れない。
 年齢より若く見えることで、男性からは好かれるのではないだろうか。特に父親くらいの年齢の男性からは、好かれると思う。
作品名:魔法のエッセンス 作家名:森本晃次