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魔法のエッセンス

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 母親の身体の中の羊水に浸かっていた時の感覚。あれが、快感の原点なんだ。原点はいつも頭の中にあり、きっと何かの弾みで時々思い出していたのかも知れない。そうでなければ、この快感の中で、すぐには思い出せるはずもないからだ。女の身体と本能、そして快感は、密接に結びついているのだろう。このメカニズムを感じた時、真美は自分が、今快感と戦っているのだと感じたのだった。
 絶頂に達した後、真美は放心状態に陥った。放心状態がどれほど続いたのか。ここまでくれば、優子はもう、何もしてこない。優しく髪の毛を撫でてくれていて、最初の心地よさに戻っていた。
 次第に意識が戻ってくるにしたがって、真美は恥かしさがこみ上げてきた。恥かしさは、羞恥心という言葉で表されるのだとうっすらと感じながら、今まで自分が思っていた羞恥心という言葉が、情けないというイメージだということを思い出していた。
――嫌だわ、本当に今の自分が、これほど情けない人間だったなんて――
 つい、さっきまでは、あれほどの快感に身を委ね、生きててよかったとまで感じたはずの頭が、ここまで変わってしまうとは、後悔だけが残ってしまうのではないかという懸念に襲われた。
 後悔は自己嫌悪を煽り、それ以上に自分をいかに今の状況から逃れさせることができるかを模索していた。
 優子は、真美の気持ちを分かっているのか、ある程度正気に戻ったことが分かったのか、思い切り、真美を抱きしめた。包み込むような抱きしめ方なので、痛みや圧迫感は感じない。快感を残したまま抱かれている感覚は、さっきも同じ感覚を感じたのを、思い出させてくれる。
――ああ、羊水の中の感覚――
 まだ、身体の中で快感が燻っている。それを逃さないように真美を包み込んでくれているのが。優子なのだ。やはり、女性同士でしか分からない何かを、優子が与えてくれているに違いない。
――こんな感覚、くせになる――
 一度味わってしまうと、逃れられなくなるのが自分でも分かっている。身体の奥からこみ上げてくる快感を、優子は逃さないように、しっかり身体で受け止めようとしてくれているのだろう。
「どう、真美ちゃん。まだ、後悔の念に苛まれている?」
「え、ええ、少しだけ」
 本当は、実際のところは分からなかった。思い切り後悔の念に苛まれた時期は、完全に抜けていたが、まったくなくなったわけでもないようだ。それは、自分を客観的に見ているからで、本当にどれほどのものなのかは、正直分からない。聞かれて困ることを、平気で聞いてくる優子に、真美は少し困っていた。
「そんなに困らなくてもいいわよ。今のあなたは、思ったことを言ってくれれば、それでいいんだからね」
 完全に見透かされていた。
「はい、思ったことを言っているだけです。でも、どうして、優子さんは私に今、こんなことをしたんです?」
「どうして、私を愛してくれたかって、聞きたいのね?」
――愛してくれた? そうか、優子さんは、私を愛してくれたんだ――
 真美は、優子の行動を、言葉にするには、どういう表現になるのか、分からなかった。
――愛している――
 この言葉は、男女間でしか使ってはいけないものだと思っていたので、まったく思い浮かばなかった言葉だった。
「愛しているという言葉、想像もつかないでしょう? 特に男性恐怖症なら、それも仕方がないことよね」
「ええ、そうです」
「でも、真美ちゃんは、処女じゃない。それは、失った時に男性恐怖症になったの?」
「私は男性恐怖症と言っても、軽いものだと思っていたんです。だから、彼と最初にした時も、そこまで恐怖は感じなかったですけど、その時から、身体が受け付けなくなったのは事実ですね」
「今付き合っている彼氏はいるの?」
「はい、最初のその人なんですけど、彼も最初に求めてきたきりで、それ以降は、それほど強くは求めてこないので、よかったと思っているんですけど、それ以降、付き合っているという意識はあるんですけど、彼氏彼女という感覚よりも、友達以上恋人未満という感覚の方が強くなったんです。本当なら、身体を重ねた時に、晴れて恋人になれる気がしたんですが、それ以前で止まってしまったんですね」
「どうやら、二人の関係は、精神面と、身体とでは、別々の関係のようね。確かにそれだと、恋人とは言えないわ。でも、私は、その関係が、今の二人にはちょうどいい感じかも知れないわね。もし、その彼が、他の女性を好きになったら、真美ちゃんは嫉妬するかしら?」
「嫉妬すると思うんですけど、心の中では、嫉妬心が本当に生まれるのかしらって思うんですよ。もし嫉妬するとしても、それは表面だけのうすっぺないもので終わってしまうんじゃないかって感じですね」
「そうかも知れないわね。真美ちゃんにとって、その男性はそれだけのものなのかも知れない。でも、彼にとっても同じで、彼は、他の女性に走ることで、その気持ちを解決しようとするでしょうね」
「私はそれでもいいと思っています」
「じゃあ、ずっと男性恐怖症を引きずったままになるわよ?」
「それでもいいと思います」
「私が、本当は治してあげたいと思っているのよ。私にできることはしてあげましょうね」
「ありがとうございます」
 今のこのタイミングでの話なのかとも思ったが、とても、普段に話ができるような話題ではない。これもやはり優子の演出なのだろうか。真美にとっては、優子の気持ちが分かってきたようで嬉しかったが、まず、今はこのまま快感を持続できることを、一番の望みとしていた。
「もっと優しくしてください」
 真美は、静かにそう訴えた。優子も愛撫は、それから始まったのだ。
 快感がさらに浮き上がってくるが、気が付けば。あれだけ溢れ出していた汗が、安全に引いていた。布団の中の暖かさが、最初の気持ちの高ぶりに戻ってきて、またしてもドキドキが煽られるようだった。
――もう一度味わえるんだわ――
 身体の奥にまだ、快感が燻っていたのだ。
「何度でも上りつめていいのよ。まだまだ夜は長いんだからね」
 その言葉に真美は反応した。そこから先は、今までの優子からだけの攻撃だけではなく、それまで遊んでいた真美の指も、優子を求めるようになっていた。
――そうだわ、私だけが恥かしい思いをする必要がないんだわ――
 この思いが、真美を大胆にさせた。
 最初に比べて快感を全身で受け止める術を覚え、何よりも、優子のどこが感じるところなのか、初めて触れる身体のはずなのに、すでに分かっていたように思えるから、不思議だった。
「真美ちゃん、上手……」
 この言葉に、真美は有頂天になった。
「優子さん、愛してる」
「真美ちゃん、やっと言ってくれたわね。そう、それが真美ちゃんの正直な気持ちなのよ」
 自分から攻撃しておいて、今では真美の攻撃に快感を覚える。お互いに上り詰める快感、それは、
「一足す一が二ではない」
 と、先ほど真美に語り掛けた優子の言葉を裏付けるものだった。
「優子さん、私、あなたの言うことすべてが信じられる気がするわ」
 快楽に身を任せているからだけではない。素直な気持ちから出た言葉だったが、優子もそれを聞くと、いたく満足そうな表情になり、
「分かってくれたようね」
作品名:魔法のエッセンス 作家名:森本晃次