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魔法のエッセンス

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 と、理解したのだ。
 勝則が真美のことを意識しないわけではなく、勝則も、真美同様、他人を意識し始めた。その相手を真美は知らなかったが、それこそ、
「知らぬが仏」
 であったのだ。
 確かに勝則は変わっていて、他の男性にないところがたくさんある。だが、それほど無茶なことをしない相手だと思っていたが、ただ、それは真美から見てのことだった。
 勝則は、真美から連絡がなかなかないことで、最初、真美が他の男性を好きになったのではないかと思った。
 そう感じるのは当然のことで、誰だって付き合っている女性から連絡がなかなかなければ、まず最初にそのことを考えるだろう。
 勝則は、真美に気付かれないように、真美を監視していた。
 そこで見たのは、毎日のように立ち寄る花屋であった。真美が花に興味を持つような女性であることは、何となく分かっていたが、それにしても毎日のように立ち寄っている。さらには、そこの女性店員と、時々、お茶や食事をしているのを見た時、本当であれば、安心していいのだろうが、何となく胸騒ぎを感じたのだ。
――これって、どこから来るものなのだろうか?
 そう思うと、胸騒ぎを覚えたのだ。
 それにしても面白いものである。
 真美の父親の松田が、まず再婚を考えていて、優子と知り合った。その優子と松田の娘の真美が知り合う。その時に優子への慕う気持ちが募ってくる。だが、その中で、どこか言い知れぬ不思議な気持ちが真美にはあった。
 真美の彼氏である勝則も、真美の様子の変化から、優子の存在を確認するが、優子が真美だけにではなく、勝則にも言い知れぬ胸騒ぎを覚えさせているのだ。
 知らない人がこの関係を見れば、
「まるで、ヘビが自分の尻尾から、自分を飲み込んでいるような感覚に襲われるかも知れない」
 と思うことだろう。
 こんな関係をすべて知っている人はきっと誰もいない。ただ、分かっていることは、この中心にいるのは、優子だということだ。
 松田父娘との出会いも、偶然であれば、勝則の思い入れも、優子のオーラと言ってもいいのではないだろうか。
 松田は、きっとこのまま優子と結婚し、そして、真美は義理の娘になる。ただ、そのことを真美は良しとしないことは分かっている。そうなれば、勝則の立場も微妙なものになるだろう。この関係がこのまま続くというのも考えにくい。この関係はまるで薄氷を踏むようなものではないだろうか。
 真美が、優子の微妙な変化に気付いたのは、父親と同席してから、一月ほど過ぎてからのことだっただろうか。
 その頃には、もう父と優子の結婚の段取りは形になってきていて、ただ、今さら結婚式を挙げることもないだろうから、家族だけでのささやかな食事会を開くことで、結婚式の代わりにしようということだった。
 言い出したのはどちらからというわけでもなく、
「年齢的に、お互いに気持ちが分かるものなのさ」
 と、父は言っていたが、その言葉に偽りはないだろう。優子の性格から考えても、同じことを考えていた可能性はかなり高いと思っている。
 食事会は、父が長期出張で、九州に行くというので、そこから帰ってきてからになるだろう。
 以前は出張もなかったが、最近の部署替えで、出張も仕方がなくなってしまった。それだけが少し気がかりだと言っていた父だったが、真美も、優子も別に気にはしていなかった。
「新婚になるのに、悪いね」
 と、父は言っていたが、
「大丈夫ですよ。真美ちゃんもいるし、それにいつも出張というわけでもないんでしょう?」
 確かに、ずっと出張に行くというわけではかあった。今回はたまたま結婚に引っかかる時に九州出張を言い渡されたが、間が悪かったとしか言いようがなかった。
 父が出張から帰ってくるのが、二か月後だった。それまでは、真美は一人になるが、それも寂しくはなかった。
「時々、私が泊まりに来てあげましょうね」
 と言ってくれたのが、真美には心強かったが、やはりここでも何か言い知れぬ胸騒ぎが起こっていた。
――何かを期待しているのかしら? それとも心配しているのかしら?
 と、得体の知れないものを感じていた。
 父が出張に出かけてから、四日目だったが、さっそく優子が泊まりに来てくれた。真美は以前、喫茶店に勤めていたということもあって、料理はお手の物だった。パスタやステーキ、サラダの盛り付けなど、手際よく、真美から見れば、これほど安心できる調理はないと思わせるほどだった。
「おいしい?」
「ええ、とっても」
 食卓には、白ワインが置かれていた。普段からワインなど飲むことのない真美だったので、ワインにも造詣の深い優子を見ていると、安心感を感じさせた。
 その安心感には、余裕を含んだものがあり、一緒にいるだけで、どうして優子に安心感を感じるかということが、おぼろげながら分かってくる気がしていた。
「おいしいものを食べると、おいしいものをずっと見ていたいという気持ちにさせられるのよ。そう思うと今度は、自分で作ってみたいと思う。ここから探求心というものは生まれてくるものなのかも知れないわね」
 またしても、優子の説得力のある言葉に圧倒されてしまった。
「確かにそうですね。おいしいという言葉を聞いただけで、私は、食べてなくても、感じていなくても、満足感の存在を感じることができる気がするんです」
 自分で何を言っているのか分からなかったが、優子は分かってくれたようで、
「そうなのよね。食欲とはよく言ったもので、なければいけないものなのよ。それがどんな形であってもね」
 そう言った時の優子の唇が妖艶に歪んだ気がしたのを、真美は見逃さなかった。
――やはり、何か言い知れぬ胸騒ぎを感じるわ――
 と、その時、再度感じた胸騒ぎを思い起こしていた。
 優子が作る料理は、贅沢であった。見た目も豪華で、今までに見たこともないような食卓だった。
「普段から、こんな贅沢しているわけじゃないのよ。私は真美ちゃんに対して腕を振るって、おもてなしをしたかったの。だから遠慮はいらないし、好きなだけ食べてくれれば嬉しいんだからね」
 どうやら、真美の気持ちは読まれているようだ。ただ、優子の表現は謙虚だが、言葉には力がある。それは料理に自信を持っている証拠であろう。今までは、大切な家族がいたわけでもなく、誰のために作るというわけではなかっただけに、力がこもるのも無理のないことだろう。真美も誰かのためにと思えば、実力以上の力が出るかも知れないと思うことがあった。それだけ優子の気持ちが高ぶっている証拠だろう。
 ワインもおいしかった。なかなか食事をしていて、お酒を呑むことなどなかった真美だったが、ワインであればよさそうな気がした。ただ、自分では呑もうとは思わない。誰かが段取りを作ってくれないと、自分で食事に合うお酒を選べるとは思えないからだ。
「何よりも一人で呑んでもおいしくない」
 という気持ちもあり、せっかくの食事の味が台無しになってしまいそうな気がしたからだ。
「優子さんは、どうしてずっと一人でいたんですか? 優子さんくらいなら、男の人はいっぱいいたでしょうに」
作品名:魔法のエッセンス 作家名:森本晃次