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魔法のエッセンス

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 確かに中には、女性を相手にする時と、男性を前にしている時とで態度がコロッと変わってしまう人もいるが、優子にはそんな雰囲気は感じさせない。男女、分け隔てなく付き合って行ける相手だと思っている。ただ、それが表と裏を持っていて、裏では何か違う優子を、付き合っている人だけが見てしまい、そのまま付き合っていくことができなくなってしまう状況を想像してみた。
――どうして、こんな想像ができるのかしら?
 理由や実際のやりとりを想像することはできないが、漠然と状況を想像することだけはできた。状況だけでも想像することができたということは、優子の中に、真美には本能で感じるものがあり、表現するまでには至らない雰囲気を垣間見ることができているように思えるのだった。
 真美は、学生時代に描いていた絵で、人物画を描く時の被写体は、必ず女性だった。男性を描くことは自分にはできないと思っていたからで、男性の微妙な身体つきの違いを、未熟な自分では描けないと思っていた。
 だが、それは間違いだった。描けないのではなく、描きたくないのだ。
 心の中では否定しているのだが、男性を、
「汚らしいもの」
 というイメージで見ていた。美学からはかけ離れていて、まるで野蛮な下等動物のようだとも思っていたのだ。
 男性と付き合っても、身体を許すようなことは絶対にしなかった。誰も信じてくれないだろうが、真美は処女だったのだ。
 まるで自分を、マリヤ様にでもなったかのようにイメージしている。真美の悩みはそれだけ大きいのだ。
 では、なぜそこまで男性を毛嫌いするようになったのか?
 それは父親を見ているからなのかも知れない。
 父親だけに育てられたことで、父親に対して、相手を男性としての意識にマヒしていたところがあった。極端な話、裸で一緒にその場に立っていても、父親だからとして、男であることを感じないだろうと思っていた。
 父親の松田も同じで、娘に対して、女を感じることなどないと思っていたのだろう。
 真美が高校生の頃、夏の暑い日、父親は無防備の生まれたままの格好で、脱衣場にいたのを、真美は知らなくて入ったことがあった。風呂から上がって、少しのぼせたのか、父は裸のまま、ボーっとして佇んでいたのだ。
「お父さん、着替え、ここに置くね」
 と言って、脱衣場の扉を開いた真美は、やはり男として感じられないと思った父親の裸を見ても、最初は何も感じなかったのである、
 だが、父親もボーっとしながら、
「おお、ありがとう」
 と、平然と答えていたつもりだったのに、身体が反応していた。
 大きくなった男性自身を、真美は目の当たりにしてしまったのである。
 その時、顔がカッと熱くなっていくのを感じた。どうしていいのか分からずに、そのまま佇んでいると、先に父親が我に返り、身体を反転させて、見られないようにした。その態度がさらに真美の気持ちを刺激した。
――どうして? どうして、隠さなきゃいけないの? 親子でしょう?
 と、言いたい言葉を飲み込んだ。
 そのまま、ぎこちない時間がどれほど続いたのか分からないが、真美は、その時から、男性恐怖症になってしまったのだ。
 父も、気まずいと思いながらも、
――すぐに、気持ちも晴れるだろう――
 と、簡単にタカをくくっていたが、実際には、そんな簡単なものではなかった。
 真美は、それから、男性を意識しなくなり、いや、できなくなったと言った方がいいだろう、まともに男性の顔を見ることができなくなったが。元々が男性を意識していなかった真美なので、彼女の微妙な変化に気付いた人はいたかも知れないが、心の奥底まで見通せる人など、いるはずもなかった。
「もしいるとしたら、優子さんだけかも知れないわ」
 優子のどこに、それだけのものがあるのか、根拠もないのに、そう思えてきた真美は、自分が父親に対して持っている感情と、男に持っていた感情が、今まで違っていたはずなのに、今は同じものであった。どちらも、
――低俗な動物――
 とまで思えてきたから不思議だった。
 真美の男性恐怖症を知っている人は、誰もいないだろう。男性恐怖症なのに、どうして勝則と付き合っているかというと、真美とすれば、
「男性恐怖症のカモフラージュ」
 だったからだ。男性恐怖症を人に知られたくもないし、ましてや父親にも知られたくはない。
 父親が元凶なのに、どうして父親に知られたくないと思うのか、それはいい意味ではなく悪い意味で感じるからである。
 もし、自分が男性恐怖症だと知ると、きっと、何とかしてあげようとするに違いない。それは自分が元凶であるという意識がないからだ。意識があれば、何とかしてあげようとは思わずに、少し距離を置こうとするに違いない。同じ家に住んでいて、その置かれた距離も、真美には耐えがたいものがあった。別に父親が悪いことをしているわけではないので、真美とすれば、いたたまれない気分になるのだった。
 勝則を彼氏に選んだのは、自分と同じような性格であるということが分かったのと、彼には女性に手を出すことのできない理由があるのを分かっていたからだった。
 彼も女性恐怖症を持っているようだ。そのことを最初に彼から聞かされた。そして、自分からは告白できたのに、相手も何か訳アリだと分かっているはずなのに、それを聞こうとはしない。
 聞いてしまうと、さらに自分が惨めになってくるからなのかも知れないが、それなりに想像はできる。まわりから見れば普通のカップルなのだが、内情はまったく違ったものになっているのだ。
 真美は、優子が気になって仕方がなくなったのは、結婚しない理由がハッキリ分からなかったからだ。男性に対して、ぎこちなさもなく、普通に接している。普通に接しているつもりでも、どこかぎこちなさを自分自身で感じる真美とは、明らかに違っているのに、なぜ、結婚しないのだろう?
 聞けばお付き合いしている人はいるという。さらに、今までにも何人もの男性と付き合ってきたにもかかわらず、結婚していない。最後に、相手からフラれることばかりだというが、本当だろうか?
 そんな疑問を抱いている中で、ある日、父親から、再婚をしたいという話を聞かされた。
「別にいいんじゃないの? 私には関係のないことだから」
 突き放したような言い方だが、実際に言葉通りなのだから、他人事のような言い方でも悪くはないだろう。それでも、父の顔を見ていると、どこか寂しそうな顔になっているのを感じると、
「どんな人なの?」
 と、助け舟を出してしまう。
「真美なら、きっと気に入ってくれると思うんだ。見た目は年齢よりもずっと若いので、まるでお姉さんのような感じで話ができるかも知れないと思ってね」
「えっ?」
 真美は、優子を思い浮かべた。その頃には、優子の年齢を知っていたからである。しかも優子は、お付き合いしている人がいると言っていたが、まさか、それが自分の父親だというのか? 偶然にしては、あまりにもではないか。
 話を聞いていくうちに、どうやら優子ではないかという想像が、現実のものになってきたようだ。
「彼女は花屋の店員で……」
 と、いうところからは、もう、間違いのないところまで来ていたのだ。
作品名:魔法のエッセンス 作家名:森本晃次