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魔法のエッセンス

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 ただ、二十二歳という年齢は、大人ではあるが、特に女性は、一番寂しい年齢ではないかと松田は思っていた。高校時代の同級生が大学を卒業して入社してくる。そんな時期に精神的に取り残された気分になるように思えてならなかったのだ。
 取り残されるというのは、語弊があるかも知れない。まわりにばかり目が行ってしまって、自分のことを顧みると、その時に寂しさを感じるのだろう。
 真美は、友達と話していて、
「彼氏がいても、このくらいの年齢の女は、寂しくなることがあるのよ」
 と言っていた。彼女には彼氏がいるが、いない人から見れば、皮肉にしか聞こえないと思うことでも、真美にはどこか納得いくところがあったのだ。
「寂しいというよりも、臆病なのかも知れないわね。誰か支えてくれる人がいても、どうしても不安な気持ちが抜けないのよ。それが以前から知っている人であればあるほど、不安に感じるの。やっぱり、自分だけが取り残されている気持ちになるからなのかも知れないわ」
 と、言っていた。真美はその言葉を噛み締めるように聞いていたが、自分に置き換えてみると、少し違っている気がしたのである。
 真美にとって就職した時と、二十歳になった時のどちらが大人になった気がしたかというと、正直、二十歳になった時だった。就職には覚悟があったが、二十歳になる時、これといった意識を最初から持っていたわけではなかったからだ。
 それなのに、二十歳になった時に意識したのは、まわりの人を意識して見たからなのかも知れない。
 真美は、父親が優子を意識しているなど、まったく知らなかったが、真美自身も、優子に興味があった。
 今までの友達とは、どこか違ったところがある。年齢は相当離れているのに、年齢差を感じさせない会話に、真美は陶酔していたと言っていいかも知れない。
 真美は優子から、時々食事に誘われた。断る理由などあるわけもなく、当然のごとくついていく。こんなに嬉しいことはないと有頂天になりながら、いつも食事の時にしてくれる話が面白いと思って聞いていた。
 食事は、パスタが多かった。
 馴染みのお店も何軒かあるようで、ワインにパスタ、ピザと言った今まであまり食べたことのないものを新鮮な気分で食べていた。
「じゃあ、真美ちゃんは、あまりパスタやワインは食したことがないのね?」
 と言ってニコニコ笑っていた。学生時代に芸術に親しんでいたので、少しは欧州かぶれでもいいのかも知れないが、あまりミーハーにはなりたくないという気持ちもあり、自分の中で避けていたところがあったのだ。
 だが、優子の話は、真美が知らない昭和の話が多かった。昭和でも、かなり前の話で、「お父さんなら分かるんだろうな」
 というような話が多かった。
 ただ、真美には、その時代への興味はあった。テレビドラマでたまに昭和の話が出てくるが、興味を持っていつも見ていた。父親が生きた時代と、今の自分の時代。無意識にでも、その二つを比較しながら見ているのが、楽しかったのだ。
 真美は、優子の本当の年齢を知らない。と言っても、二十二歳の小娘から見れば、三十代も四十代も、かなり年上というイメージしか湧いてこないのだ。年齢をあまり口にしないことで、真美が気を遣っていることに気付いたのか、
「三十代は早く過ぎたわね。でも、四十代はもっと早いかも知れないわよ」
 と、漠然としてだが話をしてくれたことで、少なくとも四十歳は過ぎているのは、間違いないようだ。
「私は、今までにあまり年上の人と話をしたことがないんですよ」
「どうしてなの?」
「私が中学に上がる頃に、両親が離婚したからかも知れないですね」
「それがどうして?」
「私は、父に引き取られて、父親に育てられたからですね」
 と言った時、一瞬、優子の脳裏に松田の顔が浮かんだが、
「まさか、そんな偶然あるわけないわ」
 と、頭に浮かんだことを打ち消し、
「私の周りには、男性が子供を引き取る人が多いってことなのかも知れないわね」
 という解釈をしたのだった。
 その時に優子が真美に対して、自分が母親になったような錯覚を覚えたが、同時に、まったく別の意識を持ったことも分かっていた。それは真美にとって人生を狂わせる危険なものであったのだが、その時は、夢にも思わなかった。実際に、優子も意識はしていたが、まだ煮詰まった意識ではなかった。
「優子さんは、結婚しないんですか?」
 真美は、失礼にあたるのは承知の上で聞いてみた。女性から見て魅力を感じる女性が、結婚していないということに、興味というよりも、他人事ではないような気がしてきたからだった。
 優子は、表情を変えることもなく、淡々と話し始めた。
「そうね。どうして結婚しないのかって言われたら困るかも知れないわね。他の人なら、いい人が現れないとか、仕事が楽しくて、婚期を逃したとかいうんだろうけど、私の場合は少し違うのよ。きっと真美ちゃんにもそのうちに分かる時が来るわ」
 と、ここまでいうと、今までの無表情に、何とも言えない表情が浮かんだ。
 それは笑みにも見えるが、何かを含んだ笑みである。意味深に思えてくるのも、複雑な心境だった。
 今の言葉が現実味を帯びてくる頃には、真美はすでに自分が変わっていくことに気付いて、そんな心境になるだろう。想像もつかなかったが、嫌な予感だけはしていた。
「私は、まだ結婚は考えられないと思っているんだけど、まわりには、結婚を焦っている人もいて、結婚ってそんなにいいものなのかな? って感じるんですよ」
 真美が、優子の何を気にしているのか、自分でも分かりかねていた。
――何か分からないけど、どうしても気になってしまう相手――
 それが優子であった。
 優子はそんな真美を、これまた「漠然とした笑み」で見つめるだけだった。
 どこにでもいるような一般的な笑みである。そのせいで、何を考えているのかが分からない。真美は、そんな優子を見ながら、自分のことを優子も気にしていることを、次第に悟ようになってきた。ただ、そのことが自分にとっていいことなのか、それとも悪いことなのか、その時の真美には、まだそのことの重大さに気づくすべがなかったのであった……。

 真美は、優子という女性が、女の目から見て、本当に理想の女性ではないかと思うほどに感じられた。それなのに、結婚しないという。これから結婚を考えていこうと思っている真美にとっては、優子が結婚しない理由が気になって仕方がなかった、
 優子に聞いてもお茶を濁した回答しかしてもらえない。
「好きになっても、最後にはいつも相手からフラれるのよ」
 これは、本当は優子の本心だったのだが、真美には信じられない。優子を好きになる男性がたくさんいるのは分かるのだが、そのほとんどすべてが、優子を最後にフッてしまうなど、信じられることではなかった。
作品名:魔法のエッセンス 作家名:森本晃次