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魔法のエッセンス

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 と思うようになった。新たにないものを書き加えることは自分の中でのルール違反になるが、省略はその限りにあらずで、新しい自分独自のジャンルを築き上げることができそうな気がしていた。
「また、絵画にも力を入れてみようかしら」
 と思うようになり、今度は大胆に省略して描くようになると、まわりの批評が賛否両論になってくるのが、真美には面白かった。
 急に変わってしまったことで、才能が逆に進むことを懸念する批判的なものもあれば、新天地開拓に期待してくれている批評もあった。批評を見ているとまるで他人事のように思えてくることが、真美には面白かったのだ。
 短大時代に合コンで、一人の男性と知り合った。彼も同じ芸術家肌で、他の人から見れば、
「変わってるわね」
 と、言われがちだが、考えてみれば、真美も同じ芸術家肌。他の人がどのように見ているから、分かったものではない。それなら、同じ芸術家肌同士、付き合ってみるのも悪くはないだろう。
 彼が芸術家肌と言われるゆえんは、ほとんど喋らないところにあった。
「別に不必要なことを喋る必要はないだろう?」
 というのが彼の持論で、真美も反対ではない。
 だが、実際に付き合ってみると、彼の考えが分からないところが随所に見えてきた。そんなところを彼の口から聞きたいと思っても、なかなか口を開こうとしない。
「ひょっとして、私から逃げてるのかしら?」
 と思うこともあるくらい、何も話そうとはしない。相手が誰であれ、分け隔てないと言えばそれまでなのだが、真美に対しては、少なくとも付き合っている相手である。少しくらいは語ってもいいのではないだろうか。
 普段は静かでもいいのだが、肝心なことも口をつぐんでしまうと、今度は相手に対しての、何も信じられなくなってしまう。それを思うと、彼に対してどう接していけばいいのか、分からなくなってしまうのだった。
 それに一番気になったのは、彼があまりにも男っぽさがあることだった。
 女性が男を感じるのは、性的なものを含むのは当たり前のことだが、性的なものだけを見てしまうと、真美には気持ち悪さしか残らない。
「私は男性が嫌いなのかな?」
 と一瞬感じたほど、彼の雰囲気はあまりにも、男っぽかったのである。
 その人とは、自然消滅だった。最初から別れるとすれば、自然消滅しかないと思っていた。相手が彼以外であっても、最初に付き合った男性とは、自然消滅していたに違いないと思った。それだけ、真美も自分の気持ちを男の前で晒すことはしないからではないだろうか。
 逃げることが悪いことだとはあまり思っていない真美だったが、それは、相手が男だからであった。女性に対しては、そこまで感じない。ただ、今までに親しくなった友達はいるが、親友というのを作った経験がない。男同士で親友がありえるが、女同士での親友はありえないと思っている真美だったからだ。
 もちろん、男女の間での親友関係は、もっとありえないと思っている。親友という言葉は、高校時代まで、まったく自分にとって無縁だと思っていた。自分には、趣味ややりたいことがあれば、それだけでよかったと思っている。絵画は真美にとって、「やりたいこと」の一つに過ぎなかったのだ。
 真美は、勝則と出会って付き合い始めた時、彼に「オトコ」を感じなかったことが、付き合い始めたきっかけだった。
 性格的に、女好きではなく、ストイックに見えて、それでいて物静か。真美が付き合う男性には共通した特徴があった。
 だが、真美は相手を好きになって付き合うのではない。何か惹かれるものはあるが、
「男を感じるのか否か」
 で、決めているような気がする。
 見た目は男臭いが、性欲という意味ではストイックである。そのことをどこまで真美が理解していて、自分がそのうちに何かに目覚めるのを予感しているようだった。
 その何かは、想像の域を超えていた。ただ、後から思えば、
「他人のことなら分かるのに、自分のこととなると、なかなか分からないものだわ」
 と、思うことであった。
「この人とも自然消滅なのかしら?」
 真美は自分の将来、特に男性との将来に関しては、想像がつくようだった。きっと、想像通りの自然消滅であろう。それは自分が相手を嫌いにならないからで、なぜ嫌いにならないかというと、本気で好きになったわけではないからだ。
 そこまでは理解できているつもりだった。
――それなのに、どうして男性と付き合おうとするのだろう?
 それは男性と付き合うことで、今まで自分が分からなかった自分の中にある何かを引き出そうとしているからに違いない。
 真美は、その原因を、
「父親に育てられたからだ」
 と思っていた。
 父親に、男らしさを感じたことはなかった。人間臭い人だとは思っていたが、男らしさを感じることも、女好きの雰囲気も感じない。真美が好きになる男性がいるとしたら、それは、
「父親とは、似ても似つかない人」
 ということになるのではないだろうか。
 今さら、母親が恋しいなど思いもしないが、自分が女であることを、時々忘れることがある。
「お母さんのようになりたくない」
 というのが本音であるが、気付かない間に、母親に自分が似てきているのではないかという思いがしてくるのが怖かった。
 真美の母親は、元々ブティックを経営していた。店が傾き始めたことから、店を売却し、自分はスナックで働き始めた。
 最初は家のために健気に働いているのだと、母親に感心の念を抱いていたが、いつの間にか、男性と付き合い始めるようになってから、少しずつおかしくなっていったようだ。
 離婚してから付き合い始めているので、別に悪いことをしているわけではないのだが、娘としてはやりきれない気持ちだった。
 やはり、男と付き合っても、すぐに別れて、また誰かと知り合って、すぐに別れて、というのを繰り返していた。
 長続きしないのは、分かる気がした。自分の性格を顧みれば、母親の気持ちも分からなくはない。ただ、その気持ちで付き合えば、よくて自然消滅、悪ければ、泥仕合のような結末が待っているだろう。
 それでも真美は、母親が嫌いなわけではない。同じ女として同情すべきところもあるし、同調する感覚もある。ただ、年齢差は如何ともしがたく、どうしても受け入れられないところも多くあるので、
「お母さんのようになりたくない」
 という気持ちが強いのも当然であろう。
 真美は、最近、母親がほしいという感情もあった。父親が、優子と付き合っていることを知らなかった頃は、優子を見て、
「この人が母親だったら、もっと違った人生だったかも知れないな」
 と思った。
 母親とは似ても似つかない雰囲気に、まず父が優子と接点を持とうなど、想像もしていなかった。ただ、優子に対しての憧れのようなものが、真美の中には存在し、その思いが近い将来、まったく違った形で、真美に襲い掛かってくるとは、その時の真美に分かるはずもなかった。
 真美が、他の人との接点にこだわるのは、同じような性格である父の遺伝のように思えたが、そうではない。本当は、父のそんな性格を分かっていて、
「あんな風にはなりたくない」
作品名:魔法のエッセンス 作家名:森本晃次