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交差点の中の袋小路

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 自業自得であることは分かっているが、その理由が分からない。もっとも、簡単に分かるようであれば、友達が離れて行くこともなく、晴彦が、毎日を繰り返す夢を見たり、他の人と夢を共有したりしないだろう。
 毎日を繰り返したり、夢を共有したりするのは、決していいことではない。悪い性格を少しでも強制しようとする、一つのターニングポイントなのだ。
「人生の分岐点」
 いつから、晴彦の身に起こるようになったのか。それは自分の中で夢として意識しているから分かるものではない。夢というものの中に、時系列という概念が、晴彦の感覚としては持っていないからだ。
 晴彦の夢の中には、寂しがり屋な女の子、愛里が共有していた。愛里は、晴彦にだけは心を開いてくれている。そんな女の子を晴彦は待ち侘びていたのだが、しょせんは夢であることを自覚するようになる。
 だが、本当の愛里は、明美の存在なくしては、見つけることができない。晴彦の夢の中で、明美の影が見え隠れしているが、それは、愛里の中にいる明美ではなく、愛里の後ろで自分を表に出したいと思って迷走している明美だった。
 晴彦の夢の中で、愛里と明美の思惑が見え隠れしていた。それは毎日を繰り返していた晴彦の夢の中では意識できていたが、一日の終わりが近づくと、虚しさに変わってしまう。「愛里を愛していた毎日を思い出す」
 本当は、繰り返している毎日の間に、愛里を抱いたという意識はなかったのに、思い切って繰り返していた毎日から抜け出した後に感じたのは、愛里を毎日抱いていたという快楽に溺れた毎日だった。
「こんな毎日を抜けられてよかった」
 快楽だけに溺れる毎日だという意識だけが残っていたのだ。
 快楽だけを楽しんでいた毎日を繰り返していたと思うことは、毎日を繰り返していた自分が、そこから抜けることの意義を求めたことで生まれた虚映なのかも知れない。
 晴彦の夢は、そのほとんどが、言い訳から生まれているものだった。
 自分の性格であったり、悪いくせから逃れるための言い訳? それとも、現実世界で起こった、あるいは、これから起こるであろうことへの言い訳、考えてみればいろいろ考えられる。
 ただ、夢だと思っているそのすべてが、本当に夢なのだろうか? 矛盾した言い訳も中にはあり、その辻褄を合わせるようにしようという思いが夢を見せているのだとすれば、現実社会の中にも夢だと思いながら、夢だという意識を言い訳にして、分からないふりをしているだけなのかも知れない。
 晴彦が共有している愛里は、夢の中では従順だった。元々、明美に対しては従順で、女性同士独特の淫靡な空気を漂わせていたのだが、そのほとんどは、愛里から発せられた。明美は愛里の淫靡な空気を醸し出させるための媒体でもあったが、明美がいないと、愛里は抑えの利かない凧の糸のように、切れてしまうとどこに行くか分からないだろう。それを繋ぎとめておく役目も明美は担っていた。
 だが、それはあくまでも晴彦の夢の中だけでのこと、現実社会での明美と愛里は、本当に淫靡な関係で、愛里は、明美がいなければ、生きていけないとまで思っていたくらいだった。
 晴彦は、現実社会での二人を知らないわけではなかった。愛里は喫茶店に勤めながら、夜はスナックでアルバイトもしていた。
 さらに明美は、風俗嬢である。男性に仕事として奉仕することのストレスを、明美は愛里で癒していた。愛里も明美に委ねることで、自分の存在感を改めて見つめなおすことができる。
 愛里は男が嫌いというわけではない。本当の男と出会う前に、明美に出会っただけなのだ。
 愛里は、夢の中で出会った晴彦を本当の男だとは思っていない。ただ、甘えることができる相手だとして、打算的なところが大きい。
「バカな男」
 と思っているかも知れない。それを表に出さないのは、それだけ、愛里もしたたかだということだろうが、そのしたたかさを植え付けたのは、明美だったのだ。
 現実世界での晴彦は、いい意味では、疑うことを知らない。愛里に対してのイメージも、清純で、穢れを知らない聖女のような女の子だと思っていたのだ。
 だが、夢の世界での晴彦は、もう少し疑い深いところがあった。それなのに、疑うことを知らなかったのは、現実社会での愛里を知っているという意識があったからだろう。
 ただ、それは無意識の中であって、どこか愛里を信じられない気持ちに陥っていくのを、愛里の後ろから見ている明美の視線が、晴彦の神経をマヒさせるに至ったのかも知れない。
 明美の中ではそんなはずではなかったであろう。あくまで自分が表に出て、晴彦と正対したいという思いがあったのだろう。だから、影となってではなく、晴彦の前に現れた。愛里しか見えていない晴彦に、何とか残像だけでも見せるだけの力を、明美は持っていたのだった。
 今度は、晴彦が明美を意識し始めた。ただ、それが晴彦を夢の世界から覚まさせることに繋がろうとは、皮肉なことだった。
 現実世界での明美は、男性不信であった。男が近づいてきただけでも、逃げ腰になってしまう。愛里に対しての態度や、夢の中での態度とはまったくの別人なのだ。
 夢の中での明美は、愛里や晴彦以外と共有していた。
 その男性は一言で言って、豪傑とでも言えようか。そんな男性に夢の中の明美は憧れるのだ。そういう意味では、晴彦とはまったく違った人物、後先を考えずに行動するようなタイプだ。
 だが、明美のような女性が、いくら夢の中でとはいえ、猪突猛進的な男性を好きになるというのも解せないところがある。後先考えずに行動しているように見えて、実は緻密な計算をしているようなそんな男に憧れる。
 相手に対しては、そんな素振りをおくびにも出さない。そんな男性で、他の人に言わせると、
「あまりにも理想が高すぎて、そんな男性なんていないわよ」
 と言われることだろう。
 だが、男性不信の明美には、それくらいの男性でなければと付き合っていけるはずもない。現実世界では難しくても、夢の世界ではいるかも知れないと思ったのだ。
 いくら夢の世界とはいえ、現実の世界の人間と違っているわけはない。現実社会との違いは環境で、理想の男性がその力を発揮できる場所は現実世界ではなく、夢の世界でしかないのだ。
「それであなたは満足なの?」
 明美は、自問自答を繰り返す。
 しかし、今はそれしかないのであって、夢の世界でその人の良さを引き出すことで、現実世界で出会った時、明美の存在に気が付いてくれれば、その人は、きっと明美の理想の男性になっているに違いないと思っている。
 明美は愛里や晴彦に比べて、はるかに理想主義者だった。夢を見ることを他の二人に比べて一番正当化している人である。
「理想主義者で何がいけないというの?」
 と言いたいのだ。
 そんな明美がどうして晴彦の夢の中で、愛里の影に隠れているというのだろう。自分が表に出ることもなく、愛里の影に隠れ、それでも自分の存在を示そうとしている。理想主義者の明美であれば、そんな行動は取らないはずではないか。
 男性不信であることが影響している。明美が男性不信に陥った理由の一番は、高校時代の先生に端を発している。
作品名:交差点の中の袋小路 作家名:森本晃次