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交差点の中の袋小路

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 しかし、晴彦の想像はまったく違ったものとなっていた。なぜなら死体のうちの一つは、彼女本人のものではないかという見解が、警察の方から発表された。科捜研で調べたところ、死体の一つの特徴が。この家に住んでいた女性のものと同じだという発表があったのだ。歯医者に通っていて、歯型の検証でもあったのかも知れない。今の科学ではもっと細かいところまで分かるだろうから、信憑性はかなりあるようだった。
「死んじゃってたんだ」
 不思議とショックではなかったが、さらに不思議な報道もその時発表された。この家に住んでいたと思われる女性の年齢が、四十代から五十代だというのだ。いくら何でもそんな年齢ではなかったはずだ。
――彼女ではないと、薄々気づいていたから、ショックを味わうことがなかったのではないか――
 という思いが頭を過ぎった。
 屋敷でのことを思い出そうとすればするほど、晴彦は彼女の存在と、見つかった死体とが同一人物には思えず、最初の考え通り。彼女が誰かを殺して逃げているのではないかという思いが募ってくるのだった。
 その思いは不安に繋がってくる。彼女が殺したのは親だという思いが消えたわけではないが、そこに転がっていた遺体は、科学的見地から、親ではないという真実を語っていたのだった。
 その遺体があった場所に次の日に行くと、誰も遺体があったことを覚えていない。警察もそんな事実を知らないという。それを誰が聞いたのかということは疑問であるが、殺害現場が翌日には、何もなかったことになってしまっている。
――意識が時系列とは逆になっているのか?
 翌日に、殺人があったことを告げた人間は、他の人から、おかしな人間だというレッテルを貼られていたに違いない。その人物が何を隠そう、彼女であったことは、晴彦には想像できた。
 彼女だからこそ、大きな問題にはならなかったのだ。
「あの娘は精神的にまともじゃない」
 というイメージで見られ、本当はそれまで普通の女の子だったのに、まわりから変な目で見られたために、本当に精神に異常をきたした。その後に、晴彦に出会ったのだが、彼女の過去を知るはずのない晴彦が想像したことが、十年近く経った後で、繋がってくるというのも不思議なものだった。
 だが、白骨死体が彼女であるという発想も捨てきれない。限りなく可能性は薄いがゼロではないという思いから、晴彦は十年という期間の長さを、今さらながらに思い知ったような気がした。
 十年という歳月を思い起こしていると、急に我に返った。一緒に呑んでいた老人のする逢魔が時の話、それは十年という思いを自分と話をしている老人との年齢差に置き換えてしまっていたことに気が付いた。
 それは老人を見ていると、
――まるで自分の将来を見ているようだ――
 まったく見えてこない、そして見えてこないことが当たり前であることを意識している晴彦だからこそ、勝手な想像を妄想として思い浮かべることができると思ったからだ。
「ご老人は、私くらいの年にも同じようなことをイメージしていましたか?」
 恐る恐る聞いてみた。
「いや、想像していなかったですね。こんなことを考えるようになったのは、ごく最近かも知れないですね。でも、それはきっとあなたも同じくらい前から感じるようになったのではないかと思うんですよ。だから波長が合うような気がしていたので、お話させていただいています」
 話の波長が合うという発想は、この場合は適切な表現かも知れない。まったく感じていなかったわけではないが、相手に話しかけられることで、発想が豊かになる。それが話を膨らませ、妄想を豊かにしたのだ。
 十年前の出来事は確かに途中からは妄想だったが、想像という世界よりも妄想の方がより、リアルな感覚がしてくるのはなぜであろう? 想像は頭の中で作り上げる部分が大きいが。妄想は。感覚が作り上げるものが大きい。頭を司るのも身体。身体を司るのも頭、どちらも相乗効果を与えるに十分なものだが、よりリアルな感覚を求めるならば、妄想の方が近い。そう思うと、妄想はその人の個性を司っていると言っても過言ではない。
 逢魔が時の話をしていると、時間があっという間に建っていた。そして、今度は、老人が少し話を変えた。
「君は、時間の流れが違う空間というものを想像したことがあるかい? もちろん、そんなことはありえないことだとは思っているのは当然なのだと思うが、私は時々、そんな時間の存在を感じるんだ。特に、こういう喫茶店などでは特に感じるかな? 密室という意味でね」
「密室でいつも不思議に思うのは、電車の中に乗った時などに時々思うことですね。理論的には、慣性の法則というんでしょうけど、例えば動いている電車の中などで、飛び上がった時、同じ場所に着地するでしょう? 電車の中では当たり前のことなんでしょうが、実際に表の世界から見ると、実に不思議ですよね。動いているんだから、地表に対して元の場所でないといけないんじゃないかって思います」
 慣性の法則だと言われて、子供の頃には納得したが、決して理解できているわけではない。こんな感覚は今までにいくつでもあることではないだろうか。
「一つの世界の中にも、また一つの世界があるという考え方ですえ。それは私も同じです。だから、表と中とで、時間の流れが違うという考え方なんでしょうけど、少なくとも次元の違うものなので、そこまで同じ世界の一人の人間に見せることができるかということが問題なんでしょうね」
「ええ、そうです。次元の違いには数多くのタブーが潜んでいるんじゃないでしょうか? そう考えると、いろいろな発想が浮かんできますとね。私がさっきした電車の中の慣性の法則の話も、そういう意味では豊かな発想の一つと言えるかも知れませんね」
「発想というのは、想像の波及であって、妄想とは違いますからね」
 妄想が一つに対して。想像はいくつも巡らすことができるということであろうか。
 彼女の行動が勝手な想像の中で確立されていく。その時の晴彦は、目を瞑っても想像できるほど、リアルな感覚がマヒしていた。最初はカラー映像だったのに、途中からモノクロ映像に移り変わる。その瞬間こそが、リアルな生々しさを少しでも和らげようとする意識の表れなのかも知れない。
 だが、実際に生々しさを感じるのは、モノクロに変わった瞬間である。モノクロであればあるほど、リアルさを感じ、今ではリアルさを感じるには、モノクロに写った方がいいという意識があるせいか、頭の中でわざとモノクロに写す仕掛けを取っているのではないだろうか。
――潜在意識のパラドックスのようなものではないか――
 逆に考えても、湧き上がる感覚が同じで、しかもその過程までもが同じ感覚を経て、積みあがるのもではないかと思うからだった。
 その時の彼女が、昨日、スナックで見かけた女性に雰囲気が似ていた。顔を見たわけではないが、イメージだけだった。いつもニコニコしていた彼女と昨日の女性は似ても似つかぬ雰囲気のはずなのに。なぜそのように思うのだろうか。
作品名:交差点の中の袋小路 作家名:森本晃次