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永遠の命

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 その理由は、踏み出す一歩に勇気が持てないのだ。何か余計なことを考えてしまい、前後のことや、損得を考えてしまうことで、最後の一歩を踏み出せない。少しでも感じた未来に対し、不安の欠片でもあったなら、最後の一歩は踏み出せない。
 最後の一歩の前には誰もが立ち止まる。これは本能のようなものだろう。そこで考えることに対して、損得、将来への不安などのネガティブな発想はタブーなのだ。少々のことであれば、損得、将来への不安を考えることもなく、それこそ本能のままに、そのまま突き進むだろう。立ち止まったという意識を持っている以上、その人にとっては、少々のことではないのだ。
 自分にできないことをできるためには、本能の赴くままに行動できる人でなければいけない。今まで高田を見ていて、迷うことがあれば、そのほとんどは行動に傾いていた彼なので、いつも自分と比較することで、彼との距離を測り、そして親友として考えを交換しあうことのできる相手であると再認識していた、今回は、自分と比較することで、彼の行動を自分に納得させた。
――自分の行動には自分を納得させる力が必要だ――
 と常々考えている黒崎は、高田に対して自分が考えている基本的な思いを思い出していた。
「高田さんと教授は永遠の命を実際に発見したんでしょうか?」
「どうやら、発見したようです。私が最初にその話を聞いたのは、三か月前でした」
 三か月前というと、高田がいなくなった頃であった。
 そのことに矛盾を感じた黒崎は、
「それはおかしいですね。高田さんが行方不明になったのがちょうどその頃だったんですよ。ということは、高田さんは行方不明になる前から、研究をひそかに続けていたということでしょうか?」
「ええ、そういうことになります」
「じゃあ、どうして途中から行方不明になったんですか? 行方をくらまさなければいけない理由があったということですよね? この研究に関係のないところで行方不明になったということでしょうか?」
 黒崎は、矛盾だらけの話に頭が混乱しないように、少しずつ整理して考えることを心掛けていた。
「いえ、そうじゃありません。高田さんはこの研究の最中に行方不明となられたのです。つまり、研究において行方不明にならなければいけないという何らかの事由が生まれたということですね」
 生駒の話は想定外すぎてついていくことができなかった。
「その理由を生駒さんはご存じなんですか?」
「ええ、知っています。私もいきなり聞かされたので、その時は話についていけませんでした。でも、私と違って黒崎さんなら何となく理解できると思っているんですよ。私がこの話を理解するまでに、一週間かかりましたからね」
「理解できたんですか?」
「理解するというよりも、事実を見せつけられると、理解するもしないもなかったですね」
 事実はどんな何ものよりも優先する。たとえ、真実と違っていたとしても、事実は曲げることができないのだ。
――では、真実は曲げることができるというのだろうか?
 と考えていると、もう一つの疑問が湧いてきた。
――真実は必ずしも正しいといえるのだろうか?
 という思いである。
 事実は必ず一つのはずだが、真実も一つだといえるのだろうか? テレビやドラマなどでは、
「真実は一つ」
 と、判で押したようなセリフをよく聞く。
 しかし、本当に真実が一つなのかどうか、誰が証明できるというのだろうか? 
 もっと言えば、
「真実というのは、個人個人で違うものであり、他人に強制できるものではない」
 と黒崎は思っていたが、それでは、紛争や言い争いなどが起こった時、その真実はどこにあるというのだろう?
 また、それを誰が証明できるというのだろう?
 そうやって考えてみると、証明するということがどれほど困難なことなのか、その場にかかわっているすべての人が納得しないと、証明できたと言えないのではないだろうか?
 黒崎は、その場にかかわっているすべての人がン納得できるような結論を導けるだけの証明など不可能ではないかと思っている。そもそも証明ができるのであれば、最初から言い争いや紛争などできるはずもない。ただ、時間ごとに状況は刻々と変化している。理解できなかったことも、少しはできるようになっているかも知れない。だが、それは次第に理解しあえているわけではなく、妥協を模索しているだけなのかも知れない。その妥協がお互いに最接近した時、納得したような気になっているのではないだろうか。
 つまりは、
――証明などという言葉で片付けようとするから難しいのであって、検証だと思えば、もう少し気楽に考えることができる――
 というものだ。
 証明と検証はどこが違うのかというと、
「証明とは一発で成功させなければいけないものであり、成功させるということは、納得させるということである。しかし、検証というのは、その段階ごとに途中経過としていくらでもできるものだ。たとえ道が間違っているとすれば、検証の途中で気が付けば、軌道修正もできるだろう。そういう意味では、科学者が相手を納得させるために行うのは、証明ではなく、検証なのだと言えるのではないだろうか」
 と黒崎は考えていた。
 そういう意味では、真実の証明とは、「検証」のことであり、検証を重ねていくうちに真実が一つなのか、複数なのかが判明していく。少なくとも研究員の考え方としては、
「真実は一つ」
 という考え方から出発しないと、堂々巡りを繰り返してしまうことになるだろう。
「生駒さんは事実を見られたようなんですが、その事実とはどういうものなんですか?」
「実は、高田さんはこの研究の実験台になっているんです」
 いきなりの言葉にビックリした。
 ポカンと口を開けている黒崎を横目に生駒は続けた。
「高田さんは、実は不治の病に侵されていました。そのことは最初は本人も知りませんでしたが、でも、どうやらウスウス気付いていたと言われていました」
――高田の性格からいうと、きっとそれはウソだろう。ウスウス気付いていたというのは、いわゆる「負け惜しみ」であり、それは弱いところを見せたくないという精一杯の抵抗だったんじゃないだろうか?
 と黒崎は考えた。
 そう思うと、高田が気の毒に思え、同情が頭をかすめていた。
 その様子を生駒は訝しそうに眺めていて、今にも苦虫を噛み潰したような顔になるのではないかと思えたほどだ。
「黒崎さんは本当に正直な方だ。考えていることがすぐに顔に出る。でも、本当のあなたはそうではないはず。今あなたのした同情を思わせる表情は、見ている人に不快感を与えかねませんよ」
 と言われてハッとした。
 普段なら、
――鬼の首でも取ったかのような言い方をしなくてもいいじゃないか――
 と感じ、露骨に反発した顔になるのだろうが、最初から納得のいかない話ばかりで、反発する気分にもなれなかった。
「まあ、正直というのは痛烈ですが、同情をしているつもりはありません」
 負け惜しみとも聞こえるあからさまな返答しか思い浮かばなかった。
 それを聞いて、生駒は一瞬ニヤッと笑ったが、それ以上は突っ込むことはなかった。話題を先に進めて、
作品名:永遠の命 作家名:森本晃次