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永遠の命

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 しかし、消去法を用いるほど、二人のことを知っているわけではない。消去法とは、百パーセントであることが前提で、すべてを知った上で消去していかないと、何にもならない。
――結局、二人の間のことは、二人にしか分からないんだ――
 という結論にしか行き着かない。
 そう思うと、中学時代に友達の家から一人帰らされたあの屈辱から、両親に対して一歩下がって見ることにしたことで、両親とはかかわりがないと思うようになった黒崎だが、――完全に、もう自分の知ったことではない――
 と思わせるほど、肉親に対して冷めていた。
 その頃から、誰に対しても冷めた目で見るようになり、たとえ誰かに裏切られたとしても、
――僕の知ったことではない――
 と思えるようになりたいと思っていた。
 そうなるには、誰も信じられないという気持ちを持つことしかなかった。そんなことを誰かに話でもすれば、
「そんな寂しいことを言うなよ。自分が孤立するだけだぞ」
 と言われることだろう。
 しかし、黒崎は両親からの仕打ちを、屈辱だと感じるようになってから、寂しいなどっという感情はなくなっていた。
 つまりは、
「孤立も孤独も、別に悪いことではない。寂しいなんて感情を持たなければいいんだ。ただ、それだけのことじゃないか」
 と言えたのだ。
――僕のこんな感情を知っている人はそうはいないだろうな――
 と感じていた。
 もし、いるとすれば、二人だと思っている。
 一人は、高田である。彼は誰に対しても同じ態度しか取らない。そこに優先順位は存在せず、まるで形式的だというべきか、血の通っていないロボットのようなところがあった。それなのに、なぜか黒崎に対しては感情をむき出しにしてきた。何か通じるものがあるのだろう。
――そういえば、高田と話をしている時、まるで電流が走ったかのように感じることが何度かあったな――
 と感じていた。

                 実験台

 行方不明になった高田が今どこにいるのか、黒崎は考えていた。
――何となく、身近にいるような気がして仕方がない――
 と感じたが、それも錯覚のようであり、そうでもないかのように思えた。
 ただ、高田の裏に、誰かがシルエットで見えているようだが、それが誰なのか、知っている人に思えて仕方がなかった。
 高田が行方不明になったのは突然というわけではなかった。彼はおおらかな性格で、しかも思いつきで行動することが多かったので、数日くらいなら連絡が取れないことも結構あり、誰も気にすることはなかった。
 しかし、さすがに決まった就職先に初日から顔を出すこともなく、何ヶ月か過ぎると、実家に会社から通知が来た。
 親展とはなっていたが、さすがにその頃には家族も、
「捜索願を出した方がいいのでは?」
 と話していた矢先だったこともあって、気になって開けてみた。
 するとそこには、解雇通知が入っていて、さすがに新入社員が一日も出社してこないのであれば、会社側としても解雇して当然であろう。通知が送られてくるだけマシなのかも知れない。早速、捜索願を警察に出したが、だからと言って、今まで見つからなかった人間が急に見つかるはずもない。
 ただ気になったのは、
「何かの事件に巻き込まれていたりはしないだろうか?」
 という心配だった。
 警察組織で、身元不明の死体が見つかれば、高田ではないかということで調べてくれるに違いない。もちろん、これは最悪の場合のことであるが、そうならないことだけを家族は願っていた。
 そういう意味では、見つかってほしいと思う反面、死体として見つかっていないことにホッとしている家族としては、これほど情けないと感じることもないだろう。
 黒崎には少し気になることがあった。
 黒崎が研究所に残ることになり、他の研究員は暖かく迎えてくれたが、一人だけ、黒崎を訝しそうに見つめている人がいた。
 その人は生駒という名の研究員で、彼は新宮教授の右腕と目されている人だった。
 黒崎が入所してから、二ヶ月経った頃に、黒崎の歓迎会が催された。他の研究員とはそれまでにだいぶ距離を縮めていたので、飲み会でも和気あいあいという雰囲気を作ることができたが、生駒研究員だけは、黒崎に睨みを利かせるだけで、馴染もうとはしなかたった。
 黒崎も、生駒には一線を画していて、こちらからも睨み返していた。
 すると、飲み会が終わり、一人家路につこうとした黒崎を後ろから呼び止める男がいた。それが生駒だったのだ。
「黒崎君。ちょっといいかい?」
 意外に思い、生駒に近き、
「何でしょう?」
 というと、
「君は、高田という男を知っているかい?」
「同級生の高田ですか? ええ知っていますよ。でも彼は今行方不明になっています」
 というと、
「彼は今、新宮教授の元にいる」
「えっ、どういうことなんですか?」
「彼は、教授の研究を悟ったみたいで、教授に近づいてきたんだ。そして教授と話をしたらしいんだが、自分から教授の研究の実験台になることを進言したんだよ」
「教授の研究? それはどのようなものなのですか?」
 新人の自分が知らないだけなのか、それとも知っているのは教授と生駒を含めたごく身近な人間だけなのか、そのことが一番最初に気になった。
「教授は、不老不死の研究をしていたんだ。もちろん、心理学の面からね。そこで生物工学の権威である鶴崎教授と共同で、不老不死、いわゆる「永遠の命」の研究を続けているんだ」
「永遠の命ですか? でも、不老不死と永遠の命という概念は、違うんじゃないかって思うんですが、僕の考えすぎですかね?」
 というと、
「そんなことはない。君のいう通りなんだ。確かに不老不死と永遠の命とは違うもののはずなんだけど、それを生物工学だけで研究していると、どうしても混同してしまうらしいんだ。だから、鶴崎教授は心理学の権威である新宮教授を巻き込むことにしたんですよ」
 という返事が返ってきた。
「そういえば、高田という男もSF小説が好きで、よく読んでいましたね。時々何を言っているのか分からないことを口にしていたので、自然と彼がそんな話をし始めると、急に彼のまわりから人が去っていくんですよ。でも、私はその場から立ち去ることができなかった。最初こそ、逃げ遅れたような感じで、聞きたくもない話を聞かされる羽目になったと思っていましたが、そんなことはありません。話を聞いているうちに、いつの間にか立場が逆転していることもあり、白熱するのは私だったりしていました」
 と、黒崎がいうと、
「君をこの研究室にどうして教授が誘ったのか分かる気がする。きっと、君は自分で発想するよりも、人の発想したことを派生させる能力に長けていて、さらに他方に向けても末広がりに見ることができるのかも知れないね」
 と言われると、まんざらでもないと思った黒崎は、
「確かにそうですね。私はSFやオカルトの話になると、時間を忘れて熱中してしまうこともまれではありません。いつの間にか話が脱線していることもありますが、その脱線は相手の望むところのようで、最後にはしかるべき場所に着地していることが多いので、私自身も、発想の派生に関しては、自分でも長けていると思っていました」
作品名:永遠の命 作家名:森本晃次