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永遠の命

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「心理学というのは、人間の心を研究するものだろう? 俺は人間の心というのは科学だって思ってるんだ。科学というものは、人間が足をどこまで足を踏み入れていいものなのか、そこが難しいと思うんだよ。たとえばタイムマシンの問題や、ロボット問題のように、研究すればするほど、踏み入れてはいけない問題に直面してしまう。そこには結界があって、絶対に踏み込めないんだよ。でも、ある一定の瞬間に、踏み入れることのできる時があると思うんだ。その時に足を踏み入れてしまうと、二度とこちらの世界には戻ってこれない。そんな世界なんじゃないかって思うんだ。そういう意味では、科学というのは人間にとっての両刃の剣じゃないかってね。だから、俺は最初から興味を持たないことにしているんだ。特に科学の中でも人間の心理というものは、絶えず蠢いているもので、生き物なんだよ。それを犯すことは俺にはできない」
 その話を聞いていると、高田はしっかりと自分で自分を納得させながら話していると思えた。
「なるほど、それが高田君の意見なんだね」
「ああ、そうだよ。でも、心理学の研究というもの自体を否定はしない。だけど、心理学を研究する人にはそれなりの資格がいると思うんだ。俺にはその資格はないと思ったから、興味がないと言ったんだよ」
 その話を聞いて、
――果たして、僕はどうなんだろう?
 黒崎は自分に問うてみた。
 自分は何も答えてはくれなかった。肯定もしないし、否定もしない。自分を納得させるだけのものはなかった。
 しかし、結局は心理学の道に進んでいた。肯定も否定もしない自分を納得させるには、やはり心理学を専攻しなければいけないと感じたのだ。根拠もなければ信憑性もない。思いつきと言われればそれまでなのだが、やめる理由もなかった。
 確かに高田の言葉には説得力があったが、それはあくまでも高田自身の問題である。自分に当てはまるものではないと感じた黒崎は、最初に感じた、
――自分は他の人と同じでは嫌だ――
 という思いに正直にいようと思った。
 そのためには、自分を納得させるのが一番だと思い、
――科学としての心理学――
 を追求してみたいと思ったのだ。
 心理学の勉強は難しく、なかなか頭に入るものではなかった。いくつか興味のあることはあったが、その部分については、必死に研究した。しかし、研究すればするほどたくさんの可能性が頭の中に浮かんできて、そのどれもが正しいように思え、間違っているかのようにも思えた。
――心理学というのは、永遠のテーマを捜し求めるようなものなんだろうか?
 と考えると、高田の言っていた、
「心理学というのは、人間の心であり、人間の心は科学なんだよ」
 と言っていたのを思い出した。
 黒崎は、心理学を勉強を続けていくうちに、次第に自分が人間嫌いになっていくのを感じた。
「心理学というのは、人間の心の裏も表も見ることになるからね」
 という、心理学の原点のような話を教授がしていたのを考えるたびに、どんどん人間嫌いになっていったのだ。
――僕だって人間の一人なのに――
 と思ったが、次の瞬間、
――自分を人間だって思いたくないんだろうか?
 と感じると、
――ではいったい人間って何なんだ?
 と思うようになった。
 まるで三段論法のように感じ、三段論法というと、必ず最後には元の場所に戻ってきて、どこをどのように巡ってきたのか、そして、その場合の近道があったのかなかったのか、それを探している自分に気がついた。
「人間は、輪廻転生という言葉のとおり、一度死んでも、また生き返るという考えがある。これは、心理学でも同じことであって、その究極の考え方を何だと思うかい_」
 と、教授に聞かれたことがあった。。
「何なんでしょう?」
「私はそれを、人間の限界だって思うんだ。魂の数に限りがあるから、転生するんだってね。心理学も同じさ。考えれば考えるほど奥深く入り込むけど、最後には同じところに戻ってくる。結局、堂々巡りを繰り返すのが人間であり、その内面をつかさどっているのが、心理だということさ」
 と話してくれた。
「人の心に裏と表があるとおっしゃいましたが、果たしてそれだけなんでしょうか?」
 と、黒崎が言った。
 黒崎はその言葉を言った後、
――あれ?
 と感じた。
 その理由は、自分で口に出しておきながら、自分の考えたことではないように思えたからだ。どこかの誰かが黒崎の口を使って言わせたかのように感じた。
 教授はその言葉を聞いて、ニヤッと微笑んだ。
「やはり、私の目に狂いはなかったかな?」
「どういうことですか?」
「黒崎君なら、そういう奇抜な発想をしてくるんじゃないかと思っていたが、まさしくその通りだったね。今君が言った話は、まさしく今私が考えていたことなんだよ。裏と表以外に何があるというんだ?」
 と言われて、たじろいでしまった。何しろ、自分が考えて口にしたわけではないと思っているからだ。
 しかし、勝手に口から言葉が出てきた。
「人の言葉を聞いて、いつもではありませんが、時々その裏に考えていることを探ってみたくなることがあるんです。そんな時、浮かんできた発想があるんですが、その発想から今度は表を見返そうとして、裏の裏を読んだ時、本当に最初に考えたことだったのかどうか、分からなくなることがあるんですよ」
「つまりは、裏の裏が表ではないということだね?」
「ええ、その通りです」
「なるほど、私がさっき言った言葉を覚えているかい? 人の心も科学だと言っただろう? その言葉の意味の一端がここに隠れているんだよ。つまりは、裏の裏が表であるという発想は、何も動いていないという前提があってこそ、ありえることなんだよね。でも実際には、時間というものが動いている。そして、時間に対応して人の心だって動いているんだよ。つまりは、発信地店と着地地点ではかなりのずれがあっても仕方がないということだね」
 と教授がいうと、またしても、黒崎は思いもしないことを口にしていた。
「まるで、アインシュタインの相対性理論のような感じですね。時間と速度の関係を思い出したのですが、速度が光速を超えると、同じ時間でも、ゆっくり過ぎていくという発想ですね。つまりは、光速で進んでいる自分は数分しか経っていないのに、普通のスピードの人間には、一年以上経過しているというような発想ですね」
 それを聞いた教授は、
「そんなに大げさな話でなくとも、慣性の法則というのがあるだろう? あれも同じではないかと思うんだ。たとえば、電車に乗っていて、そこで飛び上がっても、着地するところは、電車の中なんだよ。電車の中という世界は、他の空間とは別の空間を形成している。だから電車の中独自の着地点があるんだよ」
 黒崎はその話を聞いて、
――なるほど――
 と感じた。
 さらに教授は続けた。
「だから、裏からその裏を覗こうとすると、そこが電車の中のような特殊な空間であれば、同じところに着地するので、表に戻ってくるのだろうが、他と同じ一般の空間であれば。裏から裏を覗くと、時間が経過している分、違うところに着地する可能性が高いと思うんだ」
 と言って、微笑み返した。
作品名:永遠の命 作家名:森本晃次