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永遠の命

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 班を決めたとはいえ、実際の研究は個人にまかされていた。決まった班では行動をともにすることが一番多いというだけで、何かテーマを共同で研究するというわけではなかった。
 ただ、皆似たり寄ったりのメンバーで形成されているので、おのずから似たような研究になっているというのは、皮肉なことなのかも知れない。
 教授が班を形成させたのにはもう一つの理由があった。
 それは、学生個人と自分との間に班というグループを置くことで、直接関わることを嫌ったからだった。そのことを知っているのはきっと限られた人だけであろう。皆他人のkとには関心を持っていなかったからだ。
 そういう意味で、一番他人に関心を示さないのは黒崎だったのかも知れない。他の連中は、自分に馴染みのある人を除いて、関心がないだけで、黒崎のように、同学年の連中すべてに関心がないというのは、実に珍しかったかも知れない。
 一年生の頃は、高田という友達もいたが、三年生になる頃には、高田はアルバイトが忙しくなり、黒崎とはあまり付き合わなくなった。もし、これが黒崎と高だの間でなければどちらかが寂しさを感じ、孤独の真っ只中にいたかも知れないが、二人は疎遠になってもさほど気にするところはない。お互いに尊敬し会うところがあったからこそ、できたことではないだろうか。
 尊敬しあうというと少し大げさだが、
――一目置いていた――
 と言えば適切なのかも知れない。
 それが自分にはないところを相手に見つけたからで、すぐに一目置くという感情に至ったのは、元から相手に敬意を表して付き合っていたからなのではないだろうか。
 ゼミの間の研究が、大学卒業の時に、教授をして、
「一緒に研究してくれないか」
 という誘いになったのだと黒崎は思った。
 黒崎の研究は、他の人とは違い、人間の心理に直接関わる話ではなく、心理が及ぼす現象などについての研究だった。
 夢の世界であったり、オカルト的な話の探求であったり、ホラー小説など読んだこともない黒崎にとって、どうしてそんな研究になったのか、自分でもよく分からないと思うようなことだった。
 そういう意味では教授の研究と似たところがあったのだろう。
 そして、他の人が教授の研究の行き着く先がどういうところなのかを知らなかったのは、教授自身で悟られないようにしていたはずなのに、それを看破したのが黒崎だということも教授は分かっていたのだろう。それを踏まえた上で、
「一緒に研究してほしい」
 という考えに至ったのだと黒崎は感じた。
 黒崎が就職できずに苦しんでいたのを、教授はどんな目で見ていたのだろう?
 ひょっとすると、
――このままどこにも引っかからなければ、自分のところで一緒に研究してくれるのではないか――
 と考えたのではないだろうか。
 もし、そうであれば、黒崎にとっては溜まったものではない。
 しかし、結果的に研究室に残って研究が続けられ、そのまま就職したのと同じことになるのだがら、実にありがたいことだ。それこそ、願ったり叶ったりである。ひょっとすると、黒崎は心の中でそう願っていたのかも知れない。それを思うと、
――いい方に事態が進むというのは、自分の人徳なのかも知れない――
 という自惚れのようなものが生まれてきた。
 しかも研究室に残ることになってからの教授は、学生としての黒崎に対してとはまったく違っていた。
 学生にも自分にも。自由に研究させ、ある意味好き勝手にやっていたこともあって、会話もなければ、意志の疎通もなかった。やりやすい反面、息苦しさがあったことは否めなかった。
 しかし、研究室に残ってからの教授は違っていた。
 それまでの突き放すような雰囲気ではなく、すべてを一緒に研究しようという意志が現われていた。
「一緒に研究してくれないか」
 この言葉は本当だったのだ。
 最初は、
――社交辞令なんだろうな――
 と口説くための言葉として、あまり重く考えていなかったが、実際に残って一緒に研究をするに至って、その言葉が本当だったことに驚かされた。
 いや、驚いただけではない。喜びもあった。それまで感じたことのなかった人の温もりを、まさか教授から与えられるとは思ってもいなかったのだ。これはビックリさせられたという次元の問題ではないだろう。
――いよいよ、ベールに包まれた教授の研究の一片を、垣間見ることができるかも知れない――
 と感じた。
――別に知りたくはない――
 と思っていた学生時代とは反対に、知ることへの喜びが、教授に感じた人の温かさが本物であるかという証明にもなるのだ。
 黒崎は、教授を尊敬しているということに、いまさらながらに気がついたのだ。
 教授にとって、黒崎を助手にすることは、最初から決まっていたことのような気がしたのは気のせいであろうか? 教授は自分の研究をまるで引き継ぐかのように、個別に黒崎に話していた。
 最初は、よく分からないほど難しい話であったが、直接マンツーマンで聞かされると、それまで分からなかったことも、分かってくるというものだ。
「難しいと思うのは、すべてを点で見ているからだよ。一つの線にしてみると、そんなに難しいことではない」
 というのが、教授の口癖だった。
――そんなものなのだろうか?
 と、最初は半信半疑だったが、騙されたつもりで線にして考えてみると、一つ何かが繋がった気がした。その繋がりの延長線上に何があるのかを想像していくと、おのずとそれまで分かっていなかったことも分かってきたような気がした。
「教授の仰っていた言葉の意味が、少しずつ分かってきたような気がしました。確かに線にしてみると、見えてこなかったことが見えてきたような気がします」
 教授に連れられて行った居酒屋で、一杯呑みながら教授にそう言うと、教授は満足そうに、
「そうだろう。そうだろう」
 と言って、笑みを浮かべていた。
「今夜、終わったら一緒に呑みに行かないか?」
 と、いきなり教授に誘われた。
 教授が誰かを飲みに誘うなど、今までに聞いたことがなかった。人から誘われても、ほとんど一緒に呑みに行くことなどないと言われていた教授が、どうした風の吹き回しだろう。
 そう思っていると、教授の楽しそうな表情を垣間見ることができ、今までに自分の知らない教授を知ることができると感じ、ワクワクしていた。
 教授が連れて行ってくれたお店は、いかにも居酒屋という雰囲気で、住宅街の入り口に位置しているお店で、
「十年来の贔屓にしているお店なんだ」
 と言う教授の後ろからついて行った。
 入り口には縄のれんと、赤提灯が架けられていて、いかにも昔からある居酒屋の雰囲気だった。
 それでも、中に入ると、思ったよりも広めの店だった。こじんまりとしているような店しか知らない黒崎は、教授の雰囲気に似合う店ではないので、少しビックリした。
 教授の雰囲気は、どちらかというとバーが似合うような雰囲気だった。
 年齢的には、他の会社であれば、定年退職を迎えてもいいくらいであり、黒崎から見れば父親か、それ以上の年齢だった。まさか、差しで飲むことになるなど思ってもいなかったので、嬉しいと感じた反面、緊張しているのも確かだった。
作品名:永遠の命 作家名:森本晃次