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永遠の命

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 しかし、人によっては、一日の終わりを意識して、そのステップを越えることを自分で選択しなければいけない人がいる。
「明日を迎えるのが怖い」
 と思っている人がいるのだ。
 一度知っている一日を繰り返してしまうと、翌日に進むことが怖くなってしまう。普通の人は翌日になるのがフリーパスなので、怖いという意識はないのだが、明日には何が待っているのか分からないという思いを、怖いと感じる人がいてもおかしくはない。
 明日に広がっているのは、果たして希望なのか絶望なのか、考え方としては二つに一つである。単純に考えれば、二人に一人は怖いと思ったとしても当然のことではないだろうか。
 それでも、翌日というのは勝手にやってくるものであって、日を跨ぐことは、
――避けることのできない運命である――
 と思っているから、誰も怖いと思わないのだろう。
 それは寝ている間であっても起きている時でも、本人が意識することなく働いている心臓のようではないか、
――勝手に動いている――
 と言えばそれまでで、止まれば死んでしまうことが分かっているからなのか、止めようと思う人は誰もいない。
 しかし、
――心臓が止まってしまったら、どうしよう――
 と、普段からずっと不安で仕方がないと思っている人はほとんどいない。それだけ心臓の動きを意識していない証拠である。
 それと同じで、次の日へのステップアップを怖いと思わないのは、意識していないからであり、意識しなくてもすむ「潜在意識」というものなのだ。
 永遠の命を意識するようになったのは、ちょうどその頃からだった。
「永遠の命の源って、心臓の動きを意識するしないに関わっているんじゃないだろうか?」
 心臓の動きを意識したのが、同じ日を繰り返している人を意識したことからの副産物であったことから、初めて永遠の命というものが、自分の身近に感じられるようになったのだ。
 ただ、永遠の命がその人に幸運を与えるかどうかというのは別問題である。そのことを将来において気付くことになるのだが、まだその時には考えていなかった。
「どうして、人間には寿命なんてものがあるんだろうな?」
 黒崎は、そんな切り口から高田に話しかけた。
「寿命があるのは人間だけじゃないさ。形のあるものはすべて最後には壊れるものさ。それが宿命というものなんだろうな」
「宿命と運命とはどう違うんだろう?」
 運命という言葉はよく使うが、宿命という言葉はあまり使わない。急に言われてビックリしたが、そういえば、その二つを並べて考えたことがなかったことを思い出した。
「俺には分かっているつもりだけど、お前はどう考えるんだ?」
「言葉から受けるニュアンスと、本当の意味が合っているのかどうなのか分からないんだけど、何となく分かるような気はしているよ」
 今までに考えたことがないだけに、いざ考えるとなると、一から考えることになる。どうしても思いつきの域を出ない。
「じゃあ、話を聞かせてもらおうか」
 高田は自分で分かっているつもりなので、完全に上から目線だった。
 しかし、その時の黒崎は相手が上から目線になってくれている方が、却ってよかったような気がした。ある意味、気が楽になれたからだ。
「運命って、自分で切り開くものであり、宿命というのは、最初から決まっているもののように感じるんだ。でも、今までの感じていたニュアンスからすると、運命も宿命のように最初から決まっている場合もあるように思えることから、運命は宿命に含まれるというようなイメージだったよ」
 それを聞いて、高田はうんうんと頷いていた。
「なるほど、確かにそのニュアンスには間違いはないと思う。でも、運命というところが少し違う。運命も最初から決まっているかのように思えているんだろうけど、それは、自分の意志が働いていないところから、決まっていたと思うのであって、宿命とは違うものだと俺は思うんだ」
「ということは、自分の意志に関わらず巡ってくるものが宿命であり、運命だということだね。そしてそこから先の解釈がそれぞれで違ってくるという風に考えればいいのかな?」
「そうだね。そういう意味では、巡ってくるということを避けることができないのは二つとも同じだけど、宿命というものは、生まれる前から決まっているもので、。運命は生まれたあとに決まるものだという解釈でいいんじゃないかって思うんだ。それがこの二つの言葉の決定的な違いであり、自分の意志が及ぶのは運命だけだと言えるのではないだろうか」
「確かにそれは言えるよね。生まれる前から決まっている宿命に対しては、いくら頑張っても変えることはできなくて、これから迎えることに対しては避けることができないものだと言えるんだろうね。でも、運命というものは、自分の意志やまわりの環境が変わったことで、左右される可能性から、変えることができるもので、避けることだってできるかも知れない」
 高田が具体的な例を出して話し始めた。
「それじゃあ、自分がいつ死ぬとかいうのは宿命になるのか、それとも運命になるんだろうか?」
「言葉のニュアンスから行けば、運命という方がふさわしそうに感じられるけど、実際には宿命なんじゃないかな? 人間は生まれる時も、死ぬ時も、選べないんじゃないかって思うよ」
「じゃあ、自殺する人も宿命だっていうのかい?」
 さすがに高田のこの質問には即答ができなかった。
「その人が本当に死にたかったのかどうかだと思うんだよ。死ぬ以外に選択肢がないというほど追い詰められていたのだとすれば、そこに本人の意志は関係ないんじゃないかな?」
 そういうと、高田は少し違う考えを持っているようだ。
「俺は、自殺も宿命だと思っている。死にたいなんて本気で思っている人なんていないと思うんだ。結局自殺することになる人だって、逆らうことのできない何かに突き動かされて自殺することになるんだ。だから、俺は自殺を卑怯だとは思わない。本人の意志は働いていないと思っているからね」
「それじゃあ、まるで死神でもいるかのようじゃないか」
「そうなんだよ。死神という発想はここから来ているんじゃないかって思うんだ。そしてもっと発想を広げれば、自分たちのまわりにいる背後霊というのが、自分の意志とは関係のない宿命を司るための監視役のようなものだと考えれば、死神も背後霊の一種だとはいえないだろうか?」
「自殺をする人に、死神がついているという発想は、少し奇抜すぎるかも知れないと思うんだけど、背後霊という発想と結びつけると、とう説得力がないわけではない。それを思うと、人が死ぬ時というのは、完全に宿命なんだって思うよ」
 と黒崎が答えると、今度は高田が問うてきた。
「あえて俺は人が死ぬ時と表現したけど、それってすべて寿命だって言えるんだろうか?」
 それを聞いて、少し訝しく感じた黒崎だった。
「どういうことだい? 人が死ぬ時が寿命じゃないのかい?」
「だけど、寿命というのは、基本的にはその人の人生を全うした時を寿命というものだって思うんだけど、不慮の事故や人に殺された場合は、寿命を全うしたことにならないんじゃないのかな?」
作品名:永遠の命 作家名:森本晃次