孤独たちの水底 探偵奇談12
「まあ確かにちょっと普通じゃないからね。好きになるひとなんてちょっと想像できない。無意識にすっごい高い理想持ってそう…」
「そうそう!何ていうか、職人タイプで頑固だし、好き嫌いはっきりしてるし、颯馬くんみたいに女子に都合のいいひとじゃ絶対ないと思う!」
「おいおい悪口か」
「ち、違うよ!まあ、そういうとこも好きなんだけどね…」
例えば憧れの芸能人やアイドルと、一般人の自分が結ばれることを現実的に考える人間が殆どいないのと似ている。
「郁は自分に自信がない?」
「…それはもちろんあるよ。地味だし美人でもないし、釣り合わないなって思うもん。それに、なんだろう、須丸くんって、やっぱり普通の女の子と普通の恋愛したり、そういうのは、ないんじゃないかなって思っちゃうんだよ」
物語の中に出てくる存在とでもいうのだろうか。現実離れした不思議な力を持つことも拍車をかけているのだろうけれど、郁にはやっぱり存在そのものが作り物めいて感じられるのだ。優しさも、きれいな顔も、弓のうまさも、どこか別世界の人間のように思える。友だちとしてなら、まだ現実味がある。その他大勢の一人だから。
しかし彼のたった一人の特別なひとになるというのは、どう考えても非現実的なのだ。
郁がそう言うと、なんとなくわかるよと美波は苦笑した。
「でも、物語の王子様にも、恋して悩んでみっともないヒトいると思うよ」
「…そうかな」
「郁は庶民的だから、王子様に些細で平凡な幸福を教えてあげられると思う」
それを聞いて郁は吹き出す。
「庶民的って!もー!」
「シンデレラもそうだったでしょ?あたしは郁の地味かもしれないけど、一生懸命なとこカワイイと思ってるんだからね」
「褒めてるんだよね?……ありがとね」
二人してヘヘヘと笑う。友情が深まったようで嬉しい。友だちの存在というのはありがたいと郁は思う。美波と話せてよかった。
「ん、なんだろ」
社務所の方が賑やかになり、郁と美波は人波をかき分けてそちらを見やった。
「天谷だ」
「そっか、颯馬くんは神社の子だっけ」
颯馬は制服姿で、頭の後ろで面を被っている。社務所から出てきたところを、同級生らに囲まれてしまったらしい。彼はモテるのだ。軟派でいろんな女の子と浮名を流しているのだが、なぜか憎めない。そういうどうしようもないとこを含め愛されているのは、彼の持つ才能のようなものだと瑞がいつか言っていた。郁とは、瑞を介した不可思議な事件にともに首を突っ込んだことで親交がある。
作品名:孤独たちの水底 探偵奇談12 作家名:ひなた眞白