孤独たちの水底 探偵奇談12
目を開けると、そこにはもう森も池もなかった。倒れていた伊吹は、ぼんやりする頭をかるく振って辺りを見渡す。
「…なんだ、ここ」
四方を見上げるほどに高い岩肌に囲まれた、狭い空間だった。狭い空が、茜色に染まっている。
眼前に巨大な鳥居がそびえている。天狗神社の鳥居よりもさらに大きい。苔むした岩肌の上に倒れていた伊吹は、鳥居の奥にある巨大な滝を見た。かがり火に照らされたその滝は、岩を砕くような音をたててはるか天空から落ちているようだった。
「須丸!」
伊吹は、隣に倒れている瑞に気づく。戻ってきたのか!慌ててその背中を揺する。
「あれ…?どうなったんだっけ?」
瑞は目を開けて伊吹を見た。意識が徐々に覚醒し、戻ってきた、と驚いたように言う。
「今までどこにいたんだ…いや、それよりケガしてるのか?血が」
立ち上がった瑞の手にハンカチが巻かれ、血が滲んでいるのが見えた。
「ごめんなさい」
瑞が唐突に言った。
「俺のせいで、ごめん」
「は?」
「先輩を巻き込んだ」
項垂れる瑞の頭を、心を込めてはたく。
「おまえのせいじゃないだろ!」
「痛い!なんでぶつの!」
「お前の抱えてる問題は俺にも無関係じゃないんだって!」
謝る必要などない。探しに来たのも、ともに帰りたいと願うのも、伊吹の意思なのだから。
ひとしきり怒鳴ってやると、ようやく瑞が笑う。その笑顔に、ホッとした。
作品名:孤独たちの水底 探偵奇談12 作家名:ひなた眞白