孤独たちの水底 探偵奇談12
水鏡に、小さく波紋が広がる。一心不乱に瑞の姿を探していた伊吹は、その動きに目を奪われた。
「…あめ?」
ぽつぽつと、雨が降り出した。いつの間にか月は雲に隠れ、薄闇の中に雨の匂いが広がっている。ぽつぽつとゆっくりとした間隔で落ちてきた雨は、やがてサーと霧雨に変わり当たりを白く白く包んだ。細かな霧雨だ。
「帰ってくる」
作務衣の男が喋った。
「え?」
天を仰いで、再び彼は言った。
「彼が戻ってくる。雨の、神様」
白くけぶっていた景色が静かに光り始め、ゆっくりと景色の輪郭を消していく。その眩しさに、伊吹は目を眇めた。
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作品名:孤独たちの水底 探偵奇談12 作家名:ひなた眞白