孤独たちの水底 探偵奇談12
「あ……」
瑞は、泣きそうになる自分に戸惑いながら、こみあげてくる強烈な懐かしさが口から迸りそうになるのを必死でこらえる。きっとこのひとも、かつて自分が生きていた世で、特別だった誰かなのだ…。思い出すことはできないのだけれど。
「伊吹のところへ帰してやろう」
「え?」
老人はそういうと、先に立って歩き出す。聞きたいことはいろいろあるが、いまは迷っている場合ではない。一刻も早く伊吹のところへ帰らなければならないのだ。痩せた背中を追い、瑞は一歩を踏み出す。
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作品名:孤独たちの水底 探偵奇談12 作家名:ひなた眞白