孤独たちの水底 探偵奇談12
魂の片割れ
白狐とともに本殿を出て鳥居をくぐり、石段を抜けた先で瑞が見たものは、ひたすらに続く夏の白い光景だった。
農道がまっすぐに続き、辺りはすべて青々とした稲穂の揺れる田んぼである。四方には緑の山々がそびえ、盆地のような地形の中を、ただまっすぐに続く道を、瑞は歩いている。
「夏だ…
「ここは沓薙四柱の懐ではないようだな」
「どういうこと?」
「…神々の意思の世界ではない。これは、おまえが作り出している世界ではないのか?」
「……わかんないよ、俺には」
太陽が眩しい。真夏なのだ。本殿を囲う雑木林を出てからは、もう蝉の声は聴こえない。それでも日差しの白っぽさが明らかに夏だし、田んぼの稲穂も同様だ。ただ妙に涼しく心地よい。
「雨上がりの匂いがする。雨を連れ、雲が去っていく」
隣を歩く白狐が静かに言う。なるほど、砂利道のところどころに水たまりができている。
「…妙な水たまりだ」
瑞はその一つに屈みこみ、覗き込む。妙に澄んでいるのだ。泥が混じっている道なのに、青い空をそのまま映して動かない。鏡のように見える。
「なんか、ほんとに青い鏡みたいに見えてくるね」
「それだけ空が青く美しく、風がないのだろうな」
白狐に言われ、まあ確かに空は青いからな、と天を仰いだそのとき。
「ハイッ!!」
瑞は反射的に返事をした。隣の狐が驚いたように肩を震わせる。
「な、なんだ突然!」
「いま呼ばれた!」
作品名:孤独たちの水底 探偵奇談12 作家名:ひなた眞白