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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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孤独たちの水底 探偵奇談12

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そう言って作務衣の男は、教室の扉を指さした。伊吹は、警戒しつつもその扉に手を掛ける。
ガラガラと音をたてて扉が開くと。そこは。

「…え?」

そこは教室ではなかった。夜の森が広がっている。大きな満月と、鏡のようにその月を写す、池。水面は微動だにしない。風がないのだ。


…ここは、始まりの場所であり、終わりの場所


ふいにそんな言葉が浮かんで、伊吹は不思議に思う。なぜそんなことを思うのか。それはもう、魂が記憶しているからだとしか説明がつかない。

「この場所で、彼は幾度となく死んでは蘇った」

作務衣の男が静かに言った。

「一度目は、殺されたのち喰われた。二度目は、悲しみとともに愛するひとに封じられた。三度目は、温かい祈りに包まれ、幸福の中に消えた。消えたはずだった。だけどできなかった」

物語を聞かされている気分だ。瑞にまつわる遠い遠い話。それは現実味を失い、徐々に常識を蝕んでいく。伊吹の根幹を揺るがしていく。

「初めの死が、原初の死。すべての罪の始まり。この夜さえなければ、きみが苦しむこともなかった。元々狂っていた物語は、三度目の死で終わったはずだった。だけど…」

森の奥から、唸り声のようなものが聞こえてくる。それは背筋の奥から生理的嫌悪を伴う感情を呼び起こす。獣の断末魔のような…。

「俺は須丸を探す。あいつはどこにいるんだ?神隠しって、どういうことなんだ?」
「きみは、別の瑞と接触したろ」
「え?」

別の瑞?夢の中の瑞のことだ。

「なかったことになった世界から、存在するはずのない瑞から、存在してはならないものを受け取ったろ」

…櫛のことだ。伊吹は瞬時に理解する。

古多賀家の呪い事件の際、危険が及んだ伊吹のもとに、夢の中の瑞が、現実世界に現れた…。そして、櫛を受け取ったのだ。護ってくれるから、と。夢の中の瑞が現実に現れたあの夜のことを、この面の男は言うのだ。

「それが神々の逆鱗に触れている。別の時代の別の世界の瑞の行いは許されない」
「…須丸はどうなるんだ」

早く探さないと。瑞は櫛を握りしめる。なにかとんでもないことが起きているのだと、それだけは理解できた。





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