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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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孤独たちの水底 探偵奇談12

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伊吹は立ち尽くしたまま、どうするべきか思案していた。警察?教師を呼ぶ?そんなことは、無意味だと、心のどこかでわかっている。櫛を握りしめたまま、落ち着け、と自身に言い聞かせる。瑞に何か危機が迫っている。探しにいかなければ。いるとすればこの校舎のどこか?


「神隠しだよ」


唐突に声がして、伊吹は勢いよく振り返る。暗がりの下に立っているのは、のっぺりとした白い面をつけた者だった。背が高く、作務衣を着ている足元は裸足だ。たぶん、男。しかし口も鼻も目もない、のっぺりとしたお面をつけているうえ、背丈からは年齢も判別できない。声は大人のようで幼いような不思議な響きだった。
生徒?教師?古めかしくすすけた作務衣は、どこか古い時代を感じさせる。手には提灯を下げていた。
時代錯誤な存在が突拍子もなく現れ、伊吹はしばしぽかんと呆気にとられた。しかし瞬時に思考が再回転をはじめる。

何と言った?神隠しだって?

「探しに行くのかい」

こいつは、何者なのだ。伊吹はすっかり気おされてしまって声を出せない。異様な雰囲気をまとう、白いお面の男。しかし怖がってなどいられない。

「探さないと…」

何が何でも見つけないと。

「彼の願いはただ一つ」

伊吹の質問には答えずに、滔々と、まるで手渡された台本を読み上げるような感情のない声で男は続けた。

「あの夏に帰ること。何も知らないきみと。何も望まないきみと。ただ平和だった夏に帰ること」

あの夏?伊吹がしばしば夢に見るいつかの瑞は、いつも夏の空の下で笑っている…。眩しい光と一緒に。