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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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孤独たちの水底 探偵奇談12

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弓道場は戸締りがしてあり、灯りが落ちていた。郁は颯馬と一緒にそれを確認する。

「帰ったのかな…」
「自転車は?」

自転車小屋に、瑞の自転車は残っている。やはり祭りに行っているのだろうか。颯馬はクソ、と呟くと腕を組む。

「…ねえ、ちゃんと教えて。どうして須丸くんを探してるの?もしかしたら伊吹先輩と祭りに行ってるのかもしれないよ?」

行くわけないよ、と颯馬はいつもと違うトーンの声で答えた。街灯の明かりに浮かび上がった彼の表情は、見たこともなくらい真剣だった。鬼気迫るという言葉がぴったりだ。

「郁ちゃんは知らないかもしれないけど、瑞くんにとって沓薙山はあんまり居心地がいい場所じゃないんだ。絶対雨に降られちゃうしね。だから、祭りには行ってないと思う」
「どういうこと?全然わかんないよ」
「瑞くんは不思議な力を持ってるでしょ?郁ちゃん言ってたじゃん、裏庭の狐の事件にも彼は関わってたって。瑞くんはいろいろあって、あの山の神様達との間に通路ができてるんだ。通い路とでもいうのかな」

確かに瑞は、様々な怪事件に関わっている。狐の願いを叶えたこともある。それにしたって神様と通じているというのはどこまで信じていいのだろうか。瑞には霊感めいた不可思議な力があるのは知っている。しかし神様となると、途端にスケールが大きくなってしまい郁の思考は追いつかない。そんな郁の表情を読み取ったのは、颯馬は苦笑してみせる。

「あの子は特別なんだよ」

特別…。

クラスメイトとしても、男の子としても、郁にとっては特別なひとだ。好きなひとだから当然だ。でも颯馬が言うのは、もっと根本的に、自分たちとは違う存在なのだとでもいう雰囲気だった。先ほどの美波との会話が蘇る。現実離れしたその存在感…。王子様どころの話ではない…?

「さっき言ってたよね。今夜は神様の力が一番強い夜って。それが須丸くんに関係あるの?」
「今夜は祭りの夜。一年に一度、四柱様たちが人間に混ざって楽しむ夜だ。こちら側に、大きな影響を及ぼしてくる」
「…よくわかんないよ」
「簡単に言えば、いつも以上にこの土地に不可思議なことが起きるってこと」

郁は無意識に胸元で両手を握りしめていた。