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di;vine+sin;fonia デヴァイン・シンフォニア

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 ルイフォンが手首を外側に捻りながら、少年の後頭部を足で押さえた。
「いっ……」
 痛い、と喚くことすらままならない様子で、少年は恐怖を顔に貼り付ける。
「折れるのは、どこの骨だ? 手首か? 首か?」
 ルイフォンの冷たい声に、少年たちが静まり返った。彼らは歯向かうべき相手を間違えたことを悟った。
 少年たちのひとりが、はっと顔色を変えた。
「こいつ、鷹刀ルイフォンだ。凶賊(ダリジィン)の、鷹刀……!」
 先程までとは打って変わり、彼らの間に恐怖が伝搬する。
「どうするんだよ……?」
「半殺しになった奴もいるって聞いたぞ」
 青ざめたのは少年たちだけではなかった。背後に庇ったメイシアの息を呑む気配を感じ、ルイフォンは渋い顔をした。
「人聞きが悪い。やったのは一緒にいたリュイセンだ」
 ルイフォンが、ぐるりと周りの少年たちを見渡すと、皆一様にびくりと肩を跳ね上げた。完全に腰が引けている。ルイフォンの足元にいる仲間を気にしつつも、そろりそろりと後ずさっていた。逃げるタイミングを図っているのが見て取れた。
「ま、そういうわけで。俺の連れへの無礼を詫びてもらいたいところだが……。お前たちは運がいいな。今日は先を急いでいるんで、こいつの手首一本で許してやろう」
「ルイフォン……!」
 メイシアが目を見開いた。
 彼女にとってルイフォンの言葉は残酷で――しかし、こういう場での流儀を知らない彼女には何も言えず、押し黙る。
「――と、思ったけど、連れが許してやる、と言っているから、今回は見逃してやろう」
 ルイフォンが柔らかく微笑む。それはメイシアの頭をくしゃりとやるときの表情だったのであるが、少年たちには悪魔の微笑に見えた。
 恐怖に動けぬ少年たちに、「行け!」と、ルイフォンが鋭く言い放つ。そして、彼は少年の肩を爪先で軽く蹴った。
 少年は弾かれたように、はっと立ち上がり、一目散に逃げていく。それを追いかけるかのように他の少年たちもあとに続いた。
 じっと見送るルイフォンの横顔に、彼は初めから少年に危害を加えるつもりはなかったのだと、漠然とメイシアは感じていた。
 少年たちの姿が見えなくなり、地べたの老人やイカ焼き屋が無関係を主張するように目を逸らすようになると、少しだけ空気が軽くなった。
「ありがとうございました」
 メイシアが深々と頭を下げる。それに併せ、艶やかな髪がきらきらと陽光を反射する。質の悪い服を身に着けたところで彼女の輝きが隠せるはずもなく、この灰色の通りの中では異彩を放っていた。
「いや、俺の落ち度だ。お前みたいなのをこんなところに連れてくれば、狙われるのは当たり前だった……ったく、シャオリエのやつ……」
 ルイフォンは、この場にいない面倒な人物に毒づいて、癖のある前髪を掻き上げた。こうなることが分かっていて、彼女はメイシアを呼びつけたのだ。根拠はないが、ルイフォンには断言できる。
「お強いんですね」
「あぁ? 俺がぁ?」
 極端に語尾が上がってしまったのは、彼にとってあまりにも予想外のことを言われたからだ。日頃から、武術師範のチャオラウにやられてばかりのルイフォンである。メイシアの純粋な気持ちは少し重い。
「……俺は、弱いよ。もともと鷹刀の屋敷で凶賊(ダリジィン)として暮らしていたわけじゃないし、諜報担当の非戦闘員だから。相手が素人なら勝つ自信はあるけど、凶賊(ダリジィン)には歯が立たない」
 ルイフォンは灰色の街並みから視線を移して、青い空を仰ぎ見た。真昼の太陽が、中天高くから温かな陽射しを降り注いでいた。昨日とは違い、風はごくたまに、そよと吹くのみ。
 彼の瞳に映る空を知りたくて、メイシアもまた蒼天を見上げた。透き通った色はどこまでも澄み渡り、美しかった。しかし残念ながら、彼の心を窺うことは叶わなかった。
「おい、気を抜いていると、また面倒ごとに巻き込まれるぞ」
 唐突なルイフォンの声に、メイシアの意識は地上に引き戻される。先程の儚さすら感じられた様子から一変して、いつも通りの彼の戻っていた。
 彼は彼女に、すっと手を伸ばす。
 彼女は、わずかな逡巡ののちに、彼の掌にそっと手を載せた。