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白骨山(しらほねやま)

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 そう言って、久美は襖を開けた。その中では恐怖に震える惣一がいた。歯はガチガチと鳴り、全身からは脂汗が滴っていた。
 鬼は惣一に近づいた。生臭い息が惣一に吹きかかる。
「お前がのう……。この小屋の秘密を知ったからには、必ず生娘を連れてこい。さもなくば、お前は燻して乾燥させて、酒の肴だわ。まあ、男は不味いがのう」
 鬼がドスの利いた声で、惣一に迫った。
「あ、は、ひいっ……!」
「ここにいる娘たちは、かつて儂が食らった娘たちの魂よ」
「そ、それって幽霊……」
「まあ、そんなところだ。儂に食われて成仏もできぬ。だからここで虜にして、酒の相手をさせているわけよ」
 鬼が豪快に笑った。
「白骨山の鬼の伝説って、本当だったんですか?」
 惣一は久美を見ながら言った。ならば久美もかつて鬼に食われた幽霊なのだろうか。
「かつて『ご主人様』は保田の村の生娘をさらっては食べていた。この山は白骨で埋め尽くされた。だから『白骨山』と言うのよ」
 久美が惣一を見下ろして言った。
「ご主人様……。すると久美さんは鬼の仲間?」
「私は生きた人間よ。生娘じゃなかったから食べられなかっただけ。私の身体は汚れているからね。ただ、生娘を連れてくる役割を担わされたってわけ」
「じゃあ、今度は俺が……?」
「そうよ。生娘をたぶらかしてここへ連れてくるの。ご主人様のためにね……」
「そ、そんな……」
「一度、死んだ人間なら何でもできるでしょ? 惣一さんには選択権がないの。わかる?」
 惣一は顔面蒼白だ。第一、誰が生娘かなど、今の時代、外見では判断できぬ。それ以上に、鬼に人を食らわせるなど、とてもできそうもない惣一であった。
 惣一が震えていると、久美が優しく寄り添った。
「ところで惣一さん。そのリュックの中に、いい薬が入っているでしょう?」
「え?」
 久美は無理矢理、惣一のリュックを奪った。そこから錠剤の入った小瓶をいくつか取り出す。それは惣一が開発した新薬、ノラボンと自殺のために用意した睡眠薬、それに向精神薬だ。
「ご主人様、この男は『酒を美味くする薬』を持っております。それも百薬の長」
「ほう、酒を美味くするとな……」
 鬼が小瓶を取り上げる。
「そ、それは……」
 惣一が喋ろうとした瞬間、久美が惣一をキッと睨んだ。
「それを酒に溶かすのでございます。さすれば生娘を食えぬ憂さも晴れましょう」