白骨山(しらほねやま)
娘たちは一斉に惣一に群がった。惣一は娘たちに揉みくちゃにされる。娘たちは惣一の服を脱がそうとしているのだ。
「ちょ、ちょっと、やめてくれーっ!」
「みんな、やめなさい。気持ちはわかるけど……」
久美が娘たちを嗜めた。すると、娘たちは惣一から離れた。
「そろそろ、あいつが帰ってくるわ」
すると、娘たちは悲壮な表情を湛え、俯いてしまった。
「久美さん、これはどういうことなんだ? それに『あいつ』って一体……」
「しっ!」
久美の顔に緊張が走った。久美は全身で周囲の気配を感じているようだ。微動だにせず、空気の流れを読んでいる。
「あいつが帰ってきた。さあ、惣一さんは隠れて!」
「俺は自殺志願者だぜ。怖いものなんかないね」
「あいつの怖さは桁違いよ。さあ、ここに隠れて!」
久美は襖を開けると、そこへ入るよう惣一を促した。久美の目つきは真剣だった。仕方なく、惣一は久美の指示に従うことにした。
襖の中は黴臭く、かなり湿気が多かった。それに狭い。惣一は身体を屈めながら、息を殺した。
「おう、今帰ったぞ」
ドスの利いた野太い声が響いた。小屋の入り口の扉が軋みながら開く音がする。すると、ズシン、ズシンと足音が響き渡った。
襖には小さな穴が開いていた。そこから惣一は小屋の中を見ることができた。そーっとその声の主を確認する。そして、惣一はその姿を見て驚愕し、思わず叫び声を上げそうになった。
声の主は床にドスンと座った。真っ赤な顔に毛皮の腰巻、そして頭には二本の角が生えている。
(鬼だ……!)
そう、それは紛れもなく鬼の姿だったのである。
鬼が座ると、若い娘たちが鬼に群がる。鬼は「酒だ!」と叫び、娘たちに酒を注がせた。そして、グビグビと飲み始めたのである。
「久美、今日も獲物はなしか?」
「はい。今時、若い娘、ましてや生娘などをそう簡単にさらってくることなどできません」
「肴が欲しいのう……。生きた生娘を食らうのは儂の唯一の楽しみじゃて」
鬼はそう言うと、酒をグイと煽った。
「その代わりと言ってはなんですが、男を連れて参りました」
「男? 男など不味くて食えんぞ」
「その男に生娘をたぶらかせ、連れて来させる……。そういう筋書きはどうでございますか?」
「ふーむ。で、その男はどこにいる?」
「ここにございます」
作品名:白骨山(しらほねやま) 作家名:栗原 峰幸