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白骨山(しらほねやま)

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「なら、俺も一緒に登るよ。大仏様にお礼を言わなくっちゃ」
 そう言って惣一は久美の後を追った。実は惣一は心配だったのである。久美の背中に、昨日までの自分と同じ匂いを感じていたのだ。
(まさか、久美さん、自殺するつもりじゃ……)
 そんな疑念を抱きながら、惣一は久美の後を追った。久美は黙ったまま何も語らなかった。
 一晩寝ていない惣一の身体は異様にだるかった。それでも、久美のことが心配で石段を登った。
 丁度、心字池に着いた時だった。
「ねえ、私、東京に住んでいたんだけど、集団レイプされたの」
 久美がぼそっと呟いた。
「え?」
「でも、そのお陰で鬼に食べられなかったんだけどね。私の犯した罪は大きいわ。きっと大仏様も許してはくれない……」
「何人、鬼に食わせたんだい?」
「五人……」
「そっか……。でも、あの鬼に縛られていたんだ。仕方ないよ」
「惣一さんは私の魂も解放してくれたわ。そのことは感謝しているわ」
 久美の瞳は虚ろだった。まるで生気がない。この時、惣一は久美を山頂まで行かせてはならないと直感した。
「兎に角、大仏まで行こう」
 久美は静かに頷き、また歩き出した。心字池から大仏までは直ぐである。
 大仏は静かに座していた。そして慈しみ深い瞳を湛えている。
 大仏を前に、久美はひれ伏した。周囲にいた数名の観光客は何事かと、久美に注目した。
「許されるわけ、ないわよね……」
 久美が呟く。
「いつか、あの鬼を倒すチャンスを窺っていたけど、五人も犠牲にしてしまった。私の罪は深いのよ」
 そんな久美の肩に、惣一はポンと手を乗せた。
「地獄のぞきまでは行かせないよ。鬼に食べられ、非業の死を遂げた娘たちのためにも、久美さんは生きながら生涯をかけて罪を償っていくんだ」
 久美が涙でクシャクシャになった顔を上げた。
「どうせ、鬼の話なんて、誰も信じちゃくれないさ。俺たちだけの秘密にしよう」
 惣一が手を差し伸べる。久美は恐る恐る手を重ねた。すると、惣一はグイと久美を引き寄せた。
「民宿に残ってくれよ。俺、民宿を継ぐからさ」
 久美の口が「への字」に歪んだ。そして、惣一に縋って号泣した。その泣き声は鋸山を越えて金谷まで届くかと思われた。惣一はそんな久美を思い切り抱きしめた。

 八月。海水浴客で民宿が賑わうシーズンだ。今日も惣一の実家の民宿には沢山の泊り客が押し寄せていた。