白骨山(しらほねやま)
「いらっしゃいませ」
明るく客をもてなす久美がそこにいた。
そこへ、市場から戻った惣一が帰ってきた。
「お客さんたち、今日は朝獲れのいいアジが入りましたよ。金色の居着きのアジでさぁ。夕飯時には親父が刺身にしまさぁ」
惣一が白い歯を覗かせて笑った。泊り客たちから喝采が上がる。
「どうです、まだ夕飯までは早いから、元名海岸でもう一泳ぎするか、鋸山でも登ってみちゃあ。鋸山の大仏を拝むとご利益がありますよ。よかったら女房の久美と一緒に案内しますよ」
泊り客たちが笑った。
「なんだ、久美さん、若旦那と結婚しちゃったのか。俺、目を付けていたんだけどなぁ」
泊り客の一人がふてくされる。他の客はヤンヤヤンヤと惣一と久美を囃し立てた。
久美も気恥ずかしそうにはにかんだ。
午後の元名はのどかだった。
(了)
作品名:白骨山(しらほねやま) 作家名:栗原 峰幸