小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

ひとり言 せずにはいられない

INDEX|10ページ/17ページ|

次のページ前のページ
 

工場なのに市場



 労災対応、損害賠償の対応に加え、新規顧客との打ち合わせも毎日の業務になっていて、気持ちが休まる時が無いんですよね。正直しんどい毎日だよ。
 妻のビジネスももっと応援してやりたいし、僕にも参加してほしいようで、セミナーに誘われることもあるんだけど、こんな毎日で休みもないくらいだから、到底無理。
 ついに妻はマレーシアの会社から、5月に全世界から集まるビジネスセミナーに招待されたんだと。一人で海外は怖いから「通訳で付いて来て欲しい」って言われたけど、僕はやっぱり無理。仕事休めない。
 結局妻は、弟を連れて行った。それはそれで、結構楽しかったみたいだけど。次は6月末には台湾出張まで決まってるそうだ。今度はもう一人で行けるって・・・。

 そんなある日、島君が彼の自宅近所で、貸出中の物件があるって情報を聞き付けた。早速そこの内覧を申し込んで、僕と島君、杉ちゃんの管理職3人と、その新規業務を任せる予定の22歳山田君の4人で、物件の内覧現場に行って驚いた。
 『〇×市総合卸売市場』って書いてある建物の中だった。
(市場?)って、全員が不安になった。
 約束時間より少し早く着いたので、勝手に市場内を見学してたら、午後は閑散として誰もいない。と言うより、卸業者が店を出す50平米ほどの、店舗スペースはたくさん空いていました。きっと不景気なんだろうな。確か僕の自宅の斜め向かいのお宅が、お菓子の卸売業をやっていて、この市場に店を出してたはず。探してみたけど、それらしい看板は見付けられなかった。
 それら店舗には、1階面積の半分ほどの中二階も付いていて、天井が高い市場なので、上階は事務所や倉庫スペースとしても十分な広さだと思うけど・・・
「ここで製造業出来る?」「逃げようか」ってみんな言った。

 不動産屋さんが来て、市場の管理事務所の担当者と会って説明を受けたら、貸し出し物件は市場とは別の2階の部屋だってことだった。そこは公的な団体が長く使用されていた事務所でしたが、コロナで規模縮小され移転して行かれたそうです。
 床面積は約300平米で、作業するにも十分な広さ。男女の更衣室や書庫、リフレッシュルームにシャワーまで付いてる。室内は最近改装されたばかりで、照明はすべてLED。大型エアコンも交換したばかり。
「いいんじゃない?」って、脳みそが入れ替わった気がした。
 難点を言えば、トイレは共同で、2階と言えど高さは3階分くらいあるフロアなのに、エレベーターが無いってこと。物品の搬入時には手こずりそうだけど、その事務所の横にある裏階段は、ほぼこの事務所関係者しか使用しないようなものなので、電動階段台車を取り付けても問題ないらしい。その階段横のトイレも、この事務所専用みたいなものだ。

 そんな中、山田君がモジモジしてる。
「どうしたん?」
「え、実は僕・・・」
話を聞くと、案内してくれている管理事務所の担当者と、知り合いかもって言うんです。
「祭りでお世話になりましたよね」
「ああ! 山田君かい?」
山田君は地元の春祭りの手伝いで参加して大いに盛り上がり、この担当者と打ち上げまでご一緒させてもらっていたらしい。そのおかげで、一気にこっちの身元確認が取れたような感じになって、担当者から「ぜひ借りてほしい」と言われました。
「家賃は共益費込みで22万円」
 この広さにしては異常に安い。さすが公的な建物。市の審査はとても厳しいらしいけど、山田君のつながりで「問題ないですよ」って優遇してもらえた。
 そして管理事務所で契約について話していると、その方の上司が来られて、
「駐車場も12台まで無料でいいですよ」
市場だもの広大な駐車場完備だし。
「卓球台とか、事務机とかもそのまま使ってもらってもいい」
まだ、残置物処分前だったから、使えそうなものがもらえるらしい。
「事務所のパーテションもうちで作りますし」
材料費だけ支払えば、工賃は無料でいいって。
「なんだったら、1階の店舗スペースも、倉庫でどうですか?」
不景気でいっぱい空きが出てるから、早く賃貸契約を埋めたいそうだ。
(1階で販売するものはないしな)そう思ったけど、
「他にも整骨院がオープンするんですよ」
「え? そんな店も入ってるんですか?」
「ええ、今は卸市場でも店舗販売する会社減っちゃいましてね。一般にも開放していて、海鮮丼が名物の食堂も人気です」
皆の顔がニヤついて来る。
「じゃ、機械の組み立て作業場とか、バイクのメンテ工場とかにしてもいいんですか?」
「あまり大きな音が出るのはまずいですけど」と、心配されたが、
「掃除機くらいかなぁ。手作業での組立なんで、音はほぼ出ないです。極たまにエアーコンプレサーくらいで、バイクも電動なんでエンジン音させません」
「危険物は?」
「電装作業ばかりです。100V 電源だけでいいし、薬品等の危険物は一切使わない」
「じゃ、問題ないですよ」
 こんな急展開で、1階を再度見学しに行って、搬入口に近い店舗を紹介された。
「店の前までトラック入れてもいいですよ。皆さん車で入って来られます」
「おお便利! 雨の日でも出荷出来る」
「店のシャッター閉めて、天井さえ張ればエアコンも効きますし」
周りを見れば、中二階吹き抜けの店の中に、1階の天井を張っている店が多い。
「エアコンはこちらで設置しますが、天井はまた材料費だけでいいんで」
何というサービスの良さ。自己物件じゃ設備投資は全部自前なのに。
「実はお菓子の卸業してる知り合いがいて、確かここらに店出してたはずなんですけど」
「あ、それ、この区画です。3月で廃業されて出て行かれたんですよ」
と、今正に見学していた場所だった。
「そうだったんですか。なんて偶然だ」
「まだ、入居者募集かける前なんですけど、色々とご縁ありますねぇ」
とんとん拍子に話が進んで、僕らは一旦話を持ち帰り、急遽、管理職会議を開催した。
 中古工場の購入は完全キャンセル。破格の条件で市場の賃貸スペースを借りることに決定!
 しかも2階の事務所と作業スペースに加え、1階の店舗2区画を追加、総面積400平米あまり。家賃、共益費は合計約30万円となり、改装完了後の7月1日に引き渡し予定です。僕たちは調査と称して、市場の食堂に『上・海鮮丼』を経費で食べに行きました。美味しかったです。
 そして今、想定以上の面積を持て余さないように、営業活動が盛んになって、みんなのテンションが爆上がり中なんですが・・・。