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泉絵師 遙夏
泉絵師 遙夏
novelistID. 42743
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久遠の時空(とき)をかさねて ~Quonฯ Eterno~上

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7. 日常の在処


 やたらと明るい。
 確か、もう夕暮れで陽も沈みかけていたはず。
 ここは――
「あー! こんな所にいた!」
 誰だろう? どこかで聞いたような声――
「ノーンノ!」
 え――?
 呼んでる――?
「あんた、また寝てたのね」
「あ……」
 彼女――リウェルテ――
「もう。大丈夫? 最近見ないから、心配してたのよ」
「え、ああ……。ごめん」
 あの魔法学校らしかった。だが、この場所は見覚えがない。
 芝生と、石造りの建物が見える。
 ああ、また夢を見てるんだ――
 リウェルテがニヤリと笑う。
「蹴とばされたい?」
 って、夢じゃないの――?
 暖野は頭を振った。
「それは、やめて」
「だって、また夢だと思ってるから」
 完全に見透かされてる。もしかしたら宏美より侮れないかも――
「当たり前でしょ。だって、前にあなたが言ってたことじゃ、私はただ選ばれただけで自分で来たわけじゃないし」
「ん?」
 リウェルテが暖野の顔を覗き込んでくる。「ひょっとして、私の名前も忘れてるとか?」
 暖野はそれを真っ直ぐに見返す。
「リーウでしょ? リウェルテ・マーリ」
 忘れるわけないじゃない――
「よし、上出来」
「何よ、それ」
「時々いるのよ。ここを完全に夢の世界だって思う人が。特に、選ばれた人はね」
「その言い方、やめてくれる? 私、そんなに大それた人間じゃないし、恥ずかしい」
「ノンノは気づいてないだけよ」
「何によ?」
「あんたの実力に」
「実力なんて……」
「たぶんだけどね。ノンノが選ばれた理由も、そこにあるんだと思う」
「言ってる意味が分からない」
「ノンノには並外れた力があるのに、それに気づいてない。それは本当に危険なことなのよ」
 リーウは至って真面目に話しているようだ。
「危険? 知らないのに?」
「そう。力があるのに、それに気づいてない。無意識に力を使っても、それに気づかない」
「そんな、無意識に魔法とか使えるものなの?」
 暖野は訊く。
「魔法っていうのかな。ここでは事象操作って言ってるけど」
「事象操作?」
「うん。意識的にせよ無意識的にせよ、思ったことを現実化させたりすること」
「あ……」
 暖野には、思い当たることが幾つかあった。
「ふふ……」
 リーウが笑う。「やっぱ、やっちゃってるんだ」
「……」
「だからね、そういう事象操作を管理する方法を身に着けるために、あんたは招かれたのよ」
 軽いノリの割には、恐ろしく痛い所を突かれている、と暖野は思った。
「それと――」
 リーウが言う。「ノンノは、通(かよ)いなんじゃない?」
「通い?」
「そう。ノンノは別の世界の人で、ここに通って来てるんじゃないかって」
「みんな、学校には通って来てるんじゃないの?」
「まあ、それはそうなんだけど。私は寮に入ってるけど、この世界の人間よ。大体はこの世界の人が多いかな。それか、別の世界から来て寮に入ってるか。完全に通いの人は珍しい」
「それが、どうかしたの?」
「ううん。あんたがいつも寝てるの見てね、思ったの。聞いたことしかないけど、ノンノがいつも寝てるのは、時間酔いなんじゃないかってね」
「時間酔い?」
 時差ボケじゃなくて――?
「こちらへ転移して来る時の移相調律の不具合らしいわ。私は経験がないから分からないけど」
 意味は分からないが、結局時差ボケと同じようなものかと、暖野は思うことにした。
「慣れればどうってこと、ないらしいんだけどね」
 リーウが続ける。「そんなだから、通いの人はここを現実として認識するのに少し時間がかかるんだって」
「ふうん。そうなんだ」
 そうとしか答えようがない。「それで、今は――」
 校舎前を行き交う生徒たちの姿が見える。
「お昼休みよ。ノンノはもう、お昼食べたの?」
「食べた……のかな? わからない」
「あんたって、ホントにおかしな人ね」
 リーウが笑う。「まあいいわ。お腹は空いてる?」
「ええ。そう言えば……」
「じゃあ、一緒に行こう。私も食堂に行くところだったのよ」
 暖野はリーウに手を引かれて立ち上がった。
 食堂は、暖野の学校のものと変わらない感じだった。食券売り場兼売店、料理を提供するカウンターがあり、構内には幾つも並んだテーブル。違うのは、ガラス張りの窓の外にもテラスがあるくらいか。後は内装や天井の高さ。
「ここのプレッツェルサンドは絶品なのよ」
 リーウが言う。
「それって、あのお菓子の?」
「スナックもあるけど、それとは違うよ。試してみたら? 私も大抵はそれだから」
「う……うん。でも私、お金持ってない」
「心配しなくていいのよ。今日は私がおごるから。説明は後」
 リーウが係の人に注文する。「プレッツェルサンド・セット2つをトッピング2で」
 ピンクの紙きれ2枚を受け取り、リーウはその一枚を暖野に渡した。
「お金、払わなくていいの?」
 リーウは代金を払っていない。注文をして、食券を受け取っただけのように見えた。そう言えば、誰もお金を払っている様子はない。
「払ったわよ。マナだけど」
「マナ?」
「ほら、受付に鏡があるでしょ?」
 リーウが売り場の方を指す。「あそこに数字が出るから、それを見るだけ。学内にいる限りはお金の心配はいらないわよ」
 二人はカウンターでパンの載ったトレイを受け取った。トッピングはサラダバーのようなところから選ぶようになっている。暖野は白身魚のペーストとフレッシュサラダ、リーウはフルーツを。ソース類も自由に選べるようになっている。
 基本的にセルフサービスなのも、一般的な学食と同じだ。
 魔法学校という割には、やっていることは普通と変わらない。
 二人は外へ出て、丸テーブルにトレイを置いた。
「時間酔いを治すのは、陽に当たるのが一番だからね」
 リーウが言った。
 それって、やっぱり時差ボケと同じじゃない――
 暖野は思う。
「でも――」
 さっきからの疑問を口にする。「魔法学校って割には、普通過ぎて何と言うか。料理とか、魔法で出てきたりするのかと思ってたのに」
「そんなことにいちいち力を使ってたら、世界がひっくり返っちゃうよ」
「魔法って、そんなに簡単なことじゃないのね」
「だから統合科学って言うのよ」
 リーウが胸を張る。「まあ、食べながら話そうよ」
「そうね。せっかくおごってくれたんだから」
 その、一見ドジョウすくいの頬かむりのような形をしたサンドイッチにかぶりつく。味は、ベーグルと大差ないようだ。魚のペーストとオーロラソースが絶妙なコラボを演出している。
「まず、どこから話そうか」
 生クリームたっぷりのフルーツサンドを食べながら、リーウが言う。
「とりあえず、世界がひっくり返るってとこからお願い」
「そうね。力を使うって、多かれ少なかれ空間に影響が出るのよ。小さなものでも、積み重なると影響も大きくなる。ノンノも習うことになるけど、力を使うときは場合によっては時空修復術ってのを同時にやらないといけないの。でも、実はこれが一番難しいんだな」
「前に、先生が意識と無意識を繋ぐとかどうとか言ってたけど、それとは違うのね?」
「うん。精神調律は、まあこれは慣れね」