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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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あなたが残した愛の音。

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第6章 再会の病室



「・・・だから会社じゃ催促しない限り、プレゼントなんか期待できないんですよ。ましてや、いい出会いなんて・・・。それで次長は、あの娘とどこで知り合ったんですか?」
 部下の女性は、博之が愛音の店に連れて来たことで、自分には興味を持っていないと分かり、変に意識するのをやめて、ブッフェの食べ放題を楽しんでいた。
「どこって言うか、彼女は中学時代の恩師の娘さんなんだ」
「へえ。中学の先生の。私、先生になんか会いたく、無いーっ! です」
彼女は、水を飲もうと持ち上げたグラスが、空だったことに気付いて、口を横に「無いーっ!」と開いて言った。
「クラブの先生とかも?」
「バレー部はスパルタ、暴力、セクハラのオンパレードでした」
「そりゃ、いやだな。それでそんなに強くなったんだな」
「それもセクハラです」
「ごめんごめん」

 童顔のウェイターが、主任のグラスに水を注ぐと、彼女はこれでもかというほどの作り笑顔をした。

「でも珍しいですね。恩師とずーっと付き合いがあるなんて」
「いや、そうじゃなくって、先生が亡くなってから、彼女との付き合いが始まったのさ」
「どうして亡くなったんですか?」
「癌なんだけど、入院中に連絡があって、お見舞いに行ったんだ。最後に会えてよかったよ」
「ああ、それは残念でしたね」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 市立病院の病室の前で、博之は立ち止まった。
 ドアの横のネームプレートには、『川島ひとみ』と表示してあり、結婚せず、女手一つで愛音を育て上げたのだと、改めてその苦労を思った。
 見舞いには、娘の秋日子(あきひこ)を連れて来ていた。愛音とカフェで会ってから、見舞いに行く準備のため自宅に戻り、帰宅していた妻に事情を話したが、妻もその夜、外出する予定があった為に、どうしても博之が秋日子の面倒を見る必要があったからだ。

 ノックすると、中から愛音の返事が聞こえて、ドアが開いた。
「母には、木田さんが来ることを話しておきました。今は、少し興奮していますので」

 博之は頷き、病室に入り、そして深々と頭を下げた。そこは個室で、中央のベッドには、痩せた女性が一人横になっている。とても悲しそうな目をして、博之の方を見ていた。髪は白髪が交ざり、頬はこけて、歯グキも痩せ細ったせいで、歯には隙間が目立っていた。しかしその上品さは、間違いなくひとみ先生だった。

「先生、お久しぶりです」
ひとみ先生は、顔をしわくちゃにして泣き出した。
「木田君。・・・ごめんなさい」