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意味を持たない言葉たちを繋ぎ止めるための掌編

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ゲイジュツ


芸術とは何か、ふと、そんなことを思った。
私の定義としては、芸術とは、一から世界をつくることだ。
例えば、芸術の一つである小説を例えに考えてみる。

一から世界をつくることとは、つまり、
架空の人物に血肉を与え、架空の舞台に重力を与えることだ。
人物に肺呼吸させ、心臓を介して身体じゅうに血液を巡らせ、
脳にはシナプスを伝達させる。
重力を与えた舞台には、大地を築きあげ、
その七割を海で満たし、そして建築物を立ち並べる。

しかし、これはとても大変な作業だと思わないだろうか。
何故なら、私は全知全能の神さまなどではないのだから。
私には、地球の重力が何Gなのかも、
血液中の酸素濃度や二酸化炭素濃度さえも分からないのだ。

そのように想像力の乏しい私のような人間が、
世界を作り上げるとどうなるか。
きっと、想像つくだろう。つまり、

人物は鰓呼吸をはじめ、心臓を介して身体中に空気を巡らせ、
脳には血液を伝達させるのだ。
舞台は、重力を反転させ、
雨は空へと降り注ぎ、建築物は壁に立ち並ぶ。

そのような世界をつくりだして、
私はもう一度思う。
芸術とは何か、と。

しばらくして、私は思う。
芸術とは、不完全な人間が不完全な想像力を振り絞り、
完全な世界を作り上げようとする、
その衝動そのもののこと、なのだ、と。

しかし、それは、きっと永遠に達成できない、不可能なことだ。
何故なら、全知全能の神さまでさえ、
不完全な想像力をもつ不完全な人間を作ってしまったのだから。

つまり、我々人間は生まれながらに欠陥を抱え、不完全なのだ。
いや、しかし、と私は思う。
それ故に、我々人間は完全を求めるのだ、と。

私は、何故、神さまが不完全な人間を作ったのか考察してみた。
そうしたとき、私は気づいたのだ。つまり、
神さまは考えに考えを重ね、欠陥だらけの人間を作ったのではないか、と。

つまり、不完全ゆえに芸術が生み出せる、というわけだ。
不完全であることが芸術を生みだすための原動力となる。
最初から、人間が完全であれば、完全と不完全の概念は生じず、
『不完全から完全』へとむかう方向性そのものが存在しなくなるのだ。

そこで、私は思ったのだ。
まったく、神さまは偉大な芸術家だ。

かなわないね、と。