小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

それが家門なら

INDEX|6ページ/23ページ|

次のページ前のページ
 

6 寡婦



人づてに
偶然知った

寡婦だったと
聞かされた

新婚旅行に
向かう途中の
不慮の事故

新郎は逝き
新婦は瀕死で

ひと月眠って
やっと目覚めて
以来彼女は
逝った夫を
想いつづける
永遠(とわ)の新妻

もう10年も
前のことだと
聞かされた

長いこと
腑に落ちなかった

一瞬たりとも
気を抜けない
丁々発止の
威勢の良さとは
裏腹に

君がまったく
前ぶれもなく
ときどき見せる
虚ろな目

同じ人かと
首かしげるほど
表情も
生気もない顔

隙あらばと
手ぐすね引いてる
天敵が
ちょっかい出さない
わけがない
事あるごとに
からかった

世間知らずで
お気楽な
良家の娘が
暇にまかせて
悩み事かと

退屈そうな
顔つきで
年寄りみたいな
口を利くと

返ってくるのは
いつも決まって
人食ったような
生返事

時間が早く
過ぎればいいだの
おばあさんに
なるのが夢だの

どこまで本音で
どこから
はぐらかしてるのか

またかわされたと
苦笑するのが
常だったけど

人づてに
君の虚ろに
合点が行った

合点が行って
からかいつづけた
軽挙を悔いた

結婚初日の
生き別れ
生死をさまよう
生き地獄

19かそこらで
突き落とされた
奈落の底

誰がどう
考えたって
自分の口から
誇らしげに言う
事じゃない

忘れようにも
覚えてようにも
10年は
酷い歳月だったはず

目が虚ろにも
なるだろう
おばあさんにも
なりたいだろう

赤の他人の
僕が聞いても
息苦しくて
胸ふさがるのに

でも10年も?

寡婦の鎖に
自分で自分を
縛ったまんま
10年も?

早くあの世に
行きたくて?
老いるのだけが
楽しみだから?
だから死ぬまで
虚ろな顔?

ご立派なこと

同情が
呆れに変わり
だんだん腹が
立ってきた

ご立派すぎて
怒鳴りたいほど
無性に腹が
立ってきた

あんたはバカか?

あんたは
死人じゃ
ないんだろ?

あの世から
追い返されて
生きてるんだろ?

僕に対して
見せる度胸や
負けん気の
せめてその
半分でもいい

自分のために
使って生きちゃ
ダメなのか?

自分自身の
喜怒哀楽に
素直に生きちゃ
ダメなのか?

不慮の事故だろ?
心変わりで
別れたわけじゃ
ないんだろ?

逝った男を
一生想って
生きていかなきゃ
裏切りなのか?
許されないのか?

あの世で
そいつが
そう責めるのか?

生きてるなら
生きてるらしく
自分を
大事にして生きろ!
死人みたいな
顔するな!

そう
怒鳴りたかった

恋人でも
親兄弟でも
ない僕が

バカみたいに
心の中で
怒鳴ってた

作品名:それが家門なら 作家名:懐拳