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それが家門なら

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7 芝居をしよう



恋人芝居に
つきあってくれと
申し出た

恋人として
利用したい

非常識にも
ほどがあるけど
それでも君を
利用したい

そう切り出した

妹を
救ってやりたい
一心で
後ろめたさも
迷いもなかった

人並外れて
内気でシャイな妹が
君に夢中な若造に
無謀にも
想いを寄せてる

妹に
その若造の
視界に入る
チャンスをやりたい
助けてほしい

そう打ち明けた

若造が君を
諦めるように
僕と芝居を
してほしい
手を貸してくれと
素直に言った

当の本人に
面と向かって
身も蓋もなく

片想い
やめない若造
遠ざけたいなら
いい手じゃないかと
言い足したけど

その若造に
少しでも
気があるんなら
聞かなかったことに
してくれと
忠告も
忘れなかった

突拍子もない
無理無体だと
判りすぎるほど
判ってるから

呆れ果ててか
物も言わない
君に向かって
せめて
まっすぐ
頼みたかった

ありのままを
言いたかった
事実そうした

不思議なくらい
嘘いつわりなく
包み隠さず
打ち明けた

とはいえ
下劣なこの僕と

恋人の
ふりして歩けと
持ちかける
厚顔無恥は
重々
承知してたから

だめでもともと
気楽な捨て鉢

今にも
ビンタを
食らって終わる
今日こそは
妥当な対価と
覚悟の上でも
あったけど

ふだんは
梃子でも
聞かないのに

「引き受けます」

揶揄もせず
理由も訊かず
あっけなかった

「幼い2人に
チャンスをあげたい」
それが理由と
付け足した

人が人に
言うことかと
常識 礼儀は
ないのかと

普通なら
説教するはず
少なくとも
君ならするはず
何でしない?

妹という
僕の弱みを
憐れんだ?

病む妹に
僕が憔悴する様を
横で一晩
見てたから?

駆け引きもせず
はったりも言わず
表も裏も
全て明かして
人に悪事を
そそのかしたのも
初めてなら

イエスかノーかと
尋ねておいて
イエスと言われて
うろたえたのは
あのときが
生まれて初めて

君には拒む
自由もあるのに

まちがいなく
人の道に
もとる誘いに
理由はどうあれ
応じるなんて

自分からした
提案に
望んだはずの
返事をもらって
面食らってた

「困った人だ」
思わずこぼした
あれこそ本音

共犯が
成った記念と
握手の右手を
差し出しながら

君が不思議の
塊だった

「この芝居が
終わるまで
何を言っても
僕の言葉は
信じちゃいけない」

これだけは
念を押そうと
決め込んでいた
ような気もする

思わず知らず
口走ってた
ような気もする

いずれにせよ

忠告にしては
高飛車で
警告にしては
お粗末すぎた
芝居のルールの
君への通告

君を狙った
つもりの罠に
遠からず
自分でかかって
のたうちまわる
日が来ようとは
知る由も
なかったあの日

「信じるな」なんて
ルール気取りで
大見得切った
僕の傲慢
その滑稽

あのときは
知る由も
なかったからと
笑い飛ばして
済ますには

早晩かかって
肉をえぐって
骨を砕いた
罠の痛さは
日増しに募って
耐えがたかった

「じゃあ
信じません」

「引き受けます」と
同じくらい
間髪入れない
即答だった

おまけに君は
芝居を頼んだ
最初から
僕を見返す
そのまなざしを
一瞬たりとも
逸らさなかった

作品名:それが家門なら 作家名:懐拳