小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

女子外人寮

INDEX|13ページ/18ページ|

次のページ前のページ
 

ブチンと切れる音がした


田舎の縫製会社だと思ってはいたが、業歴45年のこの会社、それなりに効率よくやっていると感心したことが有る。
 朝と昼と夕方、毎回ミーティングが有るのだ。
中国人のグループに必ず一人いる日本人班長4人と、中国人以外の日本人スタッフ全員6名程が予定と実績、この後何をやるのか発言するのだ。

外注係は行き先等報告し、出荷、入荷係は製品の報告をする。
規模が小さいので仕事が無くなる。それで自ら休暇を採るのだ。
勿論普通の会社なら、有給消化だろうけど日給のこの会社、実質どうなっているのか訊けなかった。

俺は、反物の入庫受入れ、検針機作業、アイロンがけ、営繕、片付け等、所謂何でも屋にされていた。毎日三度も同じ内容を報告するのが苦痛だった。アイドリング時間は無くて、仕事を作ったり、探したりする必要が有った。そのうち寮への送りに加え、朝の迎えまでやらされる羽目になった。朝晩合計1時間は、タダ働き作業になったのだ。

もっと困るのはこんなことだった。
縫製業は生産に波が有る。いわゆる季節製品、夏物、冬物等の生産が終わると暇になる。
暇なときは、季節限定でセール用製品の縫製を引き受け、通常工賃の60%位の値段でも引き受けて来る。中国人を遊ばせることができないからだ。
その代わり、日本人は皆自主的に休みを採る。仕事が無いのだ。ミーティングでやるべき仕事を発表できない。
12月はもう中旬から翌年1月中旬まで仕事が閑散期なのだ。

間接部門は適当に社長が黒板に指名して休暇を採らせる。代りは誰ががやるのだ。
閑散期は毎日緊張する。翌日来なくていい指定欄に名前が発表されるからだ。
朝の迎えをやっていた男は嘆いていた、12月と1月は収入が半分になるって。

社長の言っていた俺の仕事。新しい組合の設立の件は遅々として進んでいなかった。
だんだん俺は(自分はここで何をするんだろうと)不安になって来た。得意分野の経理総務は出番がない。

中国人の送迎は奉仕作業だし。寮の見回りは毎日15分だけだった。
若い女の送迎なら楽しかろうと想像していたが、現実はティーシャツと紺色のジーンズを着けた異星人の送迎だった。言葉は初めと終わりにかける合図だけだった。しかも答えは帰って来ない。俺は中国語を覚えようとCDディスクまで買って来た。けれど覚えたのは3つだけだった。
ウォー アイ ニー(I love you) シエシエ ありがとう サイチェン またね

12月の寒い朝だった。
車庫に行くと、送迎用のワゴン車が無い。

2階の事務所に駆け上がって観た。
強制休日予定表に俺の名前が有ったのだ。
昨夜は無かったのに。

俺は、確かに確認した。昨夜は俺の名は無かった。
朝、来たら俺の名が載り、迎えは誰かが既に行った後だった。

頭の中で
なにか切れた。

ブチンと切れる
音がした。
作品名:女子外人寮 作家名:桜田桂馬