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女子外人寮

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開かずの部屋


3階には部屋が8室あった。
そのうち2つは常に鍵がかかっていた。

ひとつは謎の中国人通訳の女の部屋。
北側に面したこの部屋は、入り口のドアの磨りガラスに、いつも深緑の布が張られていた。中の様子は知る術もない。めったに見ない彼女。35歳前後だろうか。いつも黒っぽい上下を纏い、ツバの広い帽子をかぶっている。眼には鼈甲色のメガネ。通訳と称していたが会社で働く訳でもない。いつも朝どこかへ出てゆき、夕方帰る。
一体何をしているのか。女達の立場に立っての通訳は間違いなくしていたようだが、それもストとか問題が起きた時だけだ。何か研修生とは人種が違う。
俺は勝手にあの女はスパイだと思っていた。日中はどこかで何かを探っていたに相違ない。

もうひとつは、日本人の社員の部屋。
どうして、周りが全部中国人なのに、彼女だけ日本人なんだろ。
30歳ぐらいだろうか。セミロングの髪にほんの少し白髪が混じり額に数本流れている。

彼女について社長が俺に喋ったことが有る。
「おい、及川。人生はどうにもならないことが有る。あの女はとんでもない境遇だ」
社長は眉間に段の付いた左右非対称な皺を深くして、言葉を続ける。
「あいつは可哀そうな女で、近親相姦の子だ。実のテテ親とその娘が関係して生まれた子どもだ。
親が憎くて家出して、彷徨ってここまで来た。もう15年も前の話だ」
社長はそう言ってこう続けた。
「ここには変わり者と、半端者と、どうしようもない連中を預かっている。住む部屋はいくらでも余っている。
検針機を使っているあの男、75歳、東大卒。俺が拾ってやった。家族から見放され放浪していた。
今は真面目に働いているけど昔はひどかった。無断欠勤はしょっちゅうだった。」

社長はまだ言いたげだった。どうしてそんなことを話すのか。
俺は質問していいか迷った。もう少し聴いてみたい気もした。けれど、社長はそのまま事務室を離れた。
いつものことだった。
ごく普通の生活をしているつもりだったけど、俺も半端者なのか、中年独身男の俺。

作品名:女子外人寮 作家名:桜田桂馬