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女子外人寮

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ひとつ屋根の下で、同じ釜の飯を食わない・・ 


工場の4階、ここには社員食堂と研修生達の風呂場、洗濯場が有る。
食堂は賄いの日本人がいるが、かなりの年の老婆だ。昼食後の後片付けだけに来る。
料理人は40代の通いの男が来ている。研修生を入れて総人員50名程になる。

食堂には表面が所々剥がれた、古いメラミン化粧板のテーブルが10台程並んでいる。
椅子はテーブルに最初から固定されていて、座る時テーブルの下から引き出すと一本足の丸椅子が出て来る。そいつがテーブルの下に戻ってしまわないよう手で押さえそこに座る。手を離すとバネ仕掛けでぴょんとテーブルの下に戻ってしまう、そんな椅子だった。
これは中国人にピッタリだと俺は思った。片付ける必要がないからだ。

ところが妙な事に気づく。
日本人はこの賄い食事を食べるのに、研修生はグループごとに座り、持参した弁当を食べているのだ。
それぞれグループごとに丼やら鍋を持ち込みそれをつついて食べている。ご飯まで寮から持ち込んでいる。

たまたま例の自称コンサルタントの笹本が出社している日だった。
「研修生はどうして日本人と一緒のものを食べないの?」と訊いてみた。
「値段が高いと彼らは言うんだ。1食250円だから1か月昼食だけでも5000円以上かかる。あいつら夜自炊して、その残り物を朝、弁当に持ってくる。コメも米屋で2等品いわゆる屑米だ。それを信じられないような安い価格で買ってくる。みんなネットワークが有って情報を交換してるんだ。今は携帯でなんでも連絡してくる。プリペイド携帯だけは唯一の贅沢品だ、けれど皆が持ってる訳じゃない。」笹本は左手に箸を持ち替え、へこみ傷のある大きな丸やかんを傾け茶を注いだ。

金を出来るだけ貯めて、中国の故郷に持って帰る。これが彼女達の最大の目標。
身なりや食べ物、嗜好品なんぞ興味なし。日本人と付き合おうなんて全く思ってない。
同じ屋根の下で、同じ釜の飯は食わない。日本人と会話もない。これでは親しくなれるはずもない。
これが実態だと俺は思った。

風呂場は大きなものだった。一見町の銭湯かと思うほど広く、湯船も楽に7、8人は入れるだろう。けれどタイルは剥がれ落ち、その中にタイルの山が出来ている。使ってないのだ。そして湯船の中に一人だけ入れる家庭用のステンレスのバスタブが入れて有った。入りたいものはここに入れと言うのだろうか、これも汚れがひどく使った様子がない。大体、湯船に浸かる習慣がないのだ。
中国人が研修生として来る前、日本人の若い女が、九州や沖縄から集団で就職しここで生活し、その名残かも知れない。

研修生の2,3年生は、ここに有るシャワー5台をかわるがわる使っているに違いない。
シャワーはバルブが壊れ、水がポタポタと落ちている物が有った。
広い風呂場の壁にある仕切り板も無いシャワー。背中側の大きな窓は磨りガラスだったが、寒々とした殺風景な風呂場の壁に向かって、若い女達は何を想うのだろう。

洗濯場は浴場の隣に有った。そこは大きなベランダになって屋根がしてあった。その下にぶら下がった洗濯物はみんな白っぽい下着類と紺のジーンズとソックス位のもので、その種類の少なさに驚かされる。自分の部屋干しているかもしれないけど。
洗濯機も10台程並んでいたが、殆んど壊れているようだ。埃を被っていて稼働した様子がない。

全ては全盛期を過ぎ凋落した繊維産業の残滓のような設備に、若い女達がおおよそ日本人の若い女とはとんでもない距離のある生活をしている。
けれど彼女達は金のためにはそんなことは十分に我慢できる環境なのだろう。
田舎の生活はそれと同等かそれ以下の可能性があるのだ。

通訳の中国人ヨウさんの言葉を思い出す。彼女らはトイレも風呂も自宅にない生活だったかもしれないのだ。
作品名:女子外人寮 作家名:桜田桂馬