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短編集『ホッとする話』

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十一 さくら さくら 27.4.4



 大学のキャンパスに立ち並ぶ桜の並木道。正門からキャンパスに向けて当の学生たちには学生生活に文字どおりの花を添え、受験生にはこの大学に憧れるのに十分な要因となっている。
 僕も、その一人だ。

   * * *

花が咲かない時期はしっかりと下に根を伸ばして力を貯め、寒い冬を耐え抜いてやっと色を付けた桜の蕾。見る者を焦らすには十分なくらいに淡い紅色の中に春が詰まっている――。

 桜並木の終点には、後期日程つまりは最後の結果を告げる合格発表が小さく掲げられている。本割りの発表と違って集まるほどに人がいない。僕は下を向いてそこまでたどり着き、誰もいない掲示板の前に立ち、ゆっくりと頭を上げた――。

   ない。

 掲示板の後方にもある桜の蕾、時期がくればちゃんと咲くのに、目の前にある数字の羅列は氷のように冷たいただの数字だ。前期の試験が振るわなかった時から諦めに近い敗北感があったが、こうして最後通告を突きつけられるとなぜかスッキリした。
 何も考えることができない。まだ寒い春空の下、風がキャンパスを通り抜けた。

 彼女と誓った大学受験。
 僕はこの大学に合格するためすべてをここにシフトして挑んだ、彼女と同じ学校に行くために。頭のレベルは到底かなわないのは知っていたが、夏が過ぎ秋が来るにつれかなわないレベルが何とかなるところまで来た。そして彼女の支えもあって冬には同じ大学を受験するレベルまで達した。

 「石本くんと一緒の大学へ行きたい」
 
 それまでただ漠然としていた大学受験、その一言で僕は自分一人だけの力では絶対に出来ないことをやってこれた。
 そして受験は本番を向かえ、結果は彼女は前期日程で難なく合格、僕は復活合格をかけた後期日程でも不合格。僕を待っていたかもしれない桜の蕾は、僕の前では咲いてくれなかった。それだけのことを認めるために僕はここへ来た。しょせんは叶わぬ夢だったのだ。
 応援をしてくれた彼女や家族にはあわす顔が無かったけれど、ここまでがんばってこれたという結果だけは残ったと思っている。

 咲かない桜、いつかは僕のために咲いてくれる日が来る。僕はそれを信じてキャンパスをあとにして、とぼとぼと家路に着いた――。