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短編集『ホッとする話』

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十六 祝福



 きれいに飾りつけのされた小さな講堂で私 は、オルガンの音に合わせて胸を張って手を振って行進し、席まで行進する我が子を見て いた。横も、後ろも、見る子供はそれぞれ違うけど、席に座る大人たちはみんな自分の子 供たちのここでは最後の晴れ舞台を見守っている。
  演奏が止まると数十人の子どもたちは一同 に礼をして着席する。ついこないだまでお喋 りをしたり、中には泣き出す子もいる全くま とまりのなかった集団は、誰もが黙って演台に立って話をする先生の方をみて話を聞いて いる。 その中でもわが子は身体は決して大きくなく、人より優れた特技があるわけでもない。 しかし、この場ににわが子がいるだけで元々緩い涙腺が圧迫される。しっかり成長したも のだ。

 頭に超がつくくらいの低体重でこの世にやって来たわが子、長い保育器生活を経て人 の世界に生きて6年、不安と隣り合わせの毎日だったが大きな病気をせずに五体満足にここまでこれただけでも感謝以外の言葉がな い。

演台に立って、目の前でしっかりと声を出して歌うわが子を見ると、不思議と時間が巻き戻る。6年と少し、その短い時間はすぐにスタート地点にまでたどり着いた――。