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短編集『ホッとする話』

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 右側の扉が開いた。二人は外に出るように係員に促される。
「こちらこそ、ありがとうございました」
私が会釈をすると左側の扉も開き、私はお腹を押さえながらゴンドラから降りた。そして青く塗られた30番はゆっくりと向かって反時計回りに移動していった。

 観覧車の出口は入った扉の方向で違っており、以後はあの親子を見かけることはなかった。探したとしても見つからないだろう。

「そんな、気がする――」


 私が観覧車の正面に戻ってくると、母がベンチで待っててくれた。
「どうだった?」
「うん……」まとまらない感想を表現できず、返事だけはする「良かったよ」
「まるで誰かと乗っていたような顔よ」
 私はそれには何も答えなかった。それよりも、さっきの出来事を父にどうしても話したかったのだ。
「病院に戻ろうよ」
「戻る?誰か入院しているの?」母は私の頭に日傘をさした「お父さんが待ってるわよ、早くお店に帰りましょう」
「お店?」私は驚いたが、事態を理解するのに不思議と時間はかからなかった。
「ああ、そうだったね。早く帰りましょう」
 私は観覧車を背中に歩き出した。観覧車はゆっくりと回り続けている昔も、そして今も――。

  『観覧車』おわり