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短編集『ホッとする話』

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 6年前の秋、当時私は企画係で仕事をしていた。外で動き回る実働の社員の段取りと道を作る部門、一言で言えば雑用係というデスクワークだった。実働員はこちらが立てた計 画の苦労など知らずに外回り、厄介なものや後回しの仕事は大概こちらに回される。イラ イラする私の下で、部下の桂(かつら)はしっかり支えていた。 桂さんは今年結婚したばかりの女性社員。 私の立てる無理な計画の下調べやシミュレー ションはすべて彼女の力によるものだった。

 イライラしているのは仕事だけではなかっ た。というのもこの頃妊娠の経過が芳しくない妻は出産前から長い入院生活で、超過勤務が出来ない状況にあったためその負担は部下に容赦なくのし掛かる。それでも桂さんは文句ひとつ言わずにしっかりと業務をこなす。 彼女だって新婚であり、家庭のこともあるだ ろう。私は、申し訳ない気持ちで毎日定時に 退社していた。

 そんな折だった。現場に出払った閑散とし た広い部屋で二人いつもの事務仕事をしてい ると、実家から普段かかることのない職場に電話がかかってきたのだ。 電話を取った桂さんが珍しく慌てた様子で 私に取り次ぎ耳を当てると、内容は頭に入ら ず 「今すぐ病院へ行かなければ」 という情報だけが刻まれた。
「こっちは構いませんので、気を付けて行って下さい」
  まだ何も言ってないのにそう答える桂さん。 いつもの事ながら察しがいい。 私は悪いと分かっていながら全部の仕事を 彼女に託して会社を出た。予定よりも二月も 早く生まれる、母子両方の状態が気になって 踏み込むアクセルの力が自然に強くなった ――。