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冒険者の酒場



 リルガミンの街。
 昼下がり。街の西側。ある通りの角にある小さな店。ギルガメッシュの酒場。
 店内には立ち飲み用の長テーブルがいくつも並んでいる。客数は20人前後。どの客も一目で冒険者だと分かる出で立ち。そんな輩達が昼間から軽く1杯ひっかけている。

 ただ、此処は酒場とはいえ酒を楽しむのが目的の場所ではない。飲んで騒ぎたいのであれば他の店に出向けばいい。
 この店は冒険に出向くのにメンバーを見繕う場所である。もしくはメンバーを斡旋する為の場所になっている。そして、いろんな情報が集まってくる場所なのだ。
 リルガミンの街にはそういう役割をはたす酒場が2、3件程あり、ギルガメッシュの店はそのうち1つ。この街に到着したばかりの冒険者は、まずはそれらの酒場を回って情報を仕入れるのが常識である。
 つまりこの店に居る者は、メンバーを探している者か、情報を求めている者。

 店内ではそれぞれの冒険者の姿がある。
 冒険者は目的の冒険に応じた経験と実力を兼ね備えた相手を探し求めてギルガメッシュの酒場に訪れるのだ。
 狙う獲物、目的、冒険の趣旨を伝えて交渉を進めている様子。その交渉の様子を違うテーブルから遠目で品定めをしている様子。仕方なく連れて来られて、交渉そっちのけで酒を飲んでいる様子。
 1度限りの日雇いであったり、長い付き合いを見越しての交渉であったり。デカイ声で交渉する者や静かに話を交わす者、軽く酒を引っ掛けながら、それぞれのテーブルでそれぞれの交渉が進んでいる様であった。



 カウンターを挟んで店主と向き合うのは、情報を集めに来た者と考えていい。
 カウンターには戦士と魔法使の2人連れが1組、少し距離をおいて1人酒を飲む若い魔法使。
 その2人連れが、切れ者シーフのジゾットの話題をあげていた。
 隣で1人酒を飲む若い魔法使はその2人に背を向けて、店内の壁に貼られているお尋ね者の張り紙に視線をやっている。記されている懸賞金の額に視線を巡らせながら、背中でその2人の会話を聞いていた。
 数日前にこの若い魔法使がジゾットのパーティーと同行していたことを知る者は此処には居ない。どうやら2人の話は憶測や噂話程度にしか過ぎず、何かを確信する話ぶりではなかった。当然、何かを知っていれば、こんな酒場で口を開く筈もない。
 そんな2人の会話を背中で聞きつつ、若い魔法使の視線は、最近貼られたであろう1枚の賞金首の顔に釘付けになっていた。

 店主があるテーブルに新しい酒を運んだ際、そのテーブルの戦士が新しい賞金首の張り紙を指差して話しはじめた。
 大きな会話は、若い魔法使にも聞こえる。

戦士「マスター、この新しいお尋ね者は誰なんだ
    かなり高額の値段がついてるな
店主「2日前に張ったんですが、女がらみの賞金首らしいんで
僧侶「おんな?
    女に手を出して、こんなに懸賞金がかかるのか?

僧侶と戦士は軽く笑い、店主も微笑でその笑いに交じった。
戦士が笑いながら更に冗談めかした。

戦士「金貨200枚なら、ひとりでグレーターデーモンでも倒しにいくぜ
店主「サムキパーの末の娘ですよ、
       その男がはらませちまった娘は
       3人の娘の中でも一番可愛がっていた末っ子の娘

 その店主の言葉を聞いて、2人の笑いはさらに大きくなった。この街には冒険者達の頭取が3人いて、サムキパーはその中で一番大きな勢力の組織のボスである。冒険者ならその非情さを知らぬ者はいない。頭取の情報は街に来たら最初に仕入れなければならない情報の1つとされている。

戦士「馬鹿な男もいるもんだ。
    女を抱きたきゃ、いくらでも買えるだろうに
     命をなくしちまったら、どうしようもねぇだろう
僧侶「街でも命賭けだった、てことか

2人は笑い続けた。

店主「あんたら、いつこの街に来たんだね
戦士「昨日の夕方だ。他にもいる
店主「知らないようだけどね
    その男は戦士としての腕はなかなかのもんでね
    ただ、女にだらしのない奴なのさ
     ここらの界隈では、ちょいと有名
僧侶「水商売の女にあきて、初な娘に走ったか
戦士「命を懸けてまで抱きたい女なんて、会ってみたいもんだ
店主「ナカナカいいところもある男なんだがねぇ
僧侶「知り合いなのか?
店主「常連客でね
戦士「どちらでもいい。見つけたら200は俺たちが貰う
店主「まぁ、なんだ、関係のないことだけどもね
     それに、噂じゃもう何処かの街に渡ったって話だ
     ここ4、5日は姿を見ないって聞いてるからね
僧侶「最後に姿を見た奴は?
店主「居るのかもしれないが、そんな情報は誰も喋らんよ
    アンタだってそうだろうが
    それがアンタらの仕事さ
     私はアンタらに酒を売るのが仕事

戦士は苦笑いしてラム酒を飲んだ

店主「その貼り紙をよく見なよ
    生死に構わず、と書いてあるだろう
    とにかく女子供だろうが、
    サムキパーの机の上にその首を置いた者には、
    当分は遊んで暮らせるだけの金貨が入る
戦士「そんなに可愛い娘なら、
    首に縄でもかけて犬小屋にでも放り込んでりゃいい
店主「奴は娘をはらませた男の名前を、どうやって調べたと思うかね?
僧侶「娘から聞き出したんだじゃないのか?
戦士「それが一番手っ取り早いし、俺ならそうするな
店主「確かにそうなんだがね、
    何日かは口を割らなかったんだよ、惚れた男を守るためにね
    でも業を煮やし、手下を使って痛めつけた
戦士「当然だろうな
店主「皆の前で身重の娘の両腕を叩き折ったんだよ
僧侶「飼い犬に娘を噛まれて、この金額か
戦士「……
店主「その張り紙には関わらん方がいい
戦士「娘の腕をねぇ、酷い話だな


 3日前、奇跡的にダンジョンから生還した若い魔法使は、その3人の会話を聞きながら、壁に貼られている張り紙から視線を離さなかった。
 その張り紙の賞金首の顔の下にはこう書かれている。

”ガルシアの首 金貨200枚”