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幽霊屋敷の少年は霞んで消えて

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でも、わたしはミゾレ様に会えたからそれはそれで良いんだけどね。
後の二人……(雪子ちゃんとシンゴくんだっけ?)にも会いたいな。
霞くんが幽霊紹介を切り上げようとしたので、わたしはあわてて言った。
「待って、まだ2人いなかった?」
わたしが言うと、霞くんは不思議そうな顔をした。
セリフを付けるとしたら「ほぇ?」だろう。
「ホラ、幽霊の」
と、わたしが言うと霞くんはようやく理解したように「ああ」と呟いた。
「悪いけど、あの2人には会えないと思う」
霞くんが自嘲気味に言った。
一体、どういうことだろうか。
もしかしてもうこの世にはいない……とかそういうことだろうか。つまり家出かな?
「どうして?」
「うん……。あの2人はあまり人とのコミュニュケーションが得意じゃないんだよ。雪子はとても気弱だから最近ちょっと引きこもり気味だし、シンゴは力が強くて乱暴者なんだ。二人とも根は優しいんだけれどね」
そう言ってから霞くんは「そうじゃなきゃ、追い出してるし」と付け足した。
どうやら、ミゾレ様にはほかの幽霊たちを統制する不思議な力があるらしい。
霞くんの体を使う際に、ルールを乱したりすればすぐさまミゾレ様によってこのアパートから追放されてしまうらしいのだ。
まあ、一番の古株―言ってみれば、ベテランなのだからそれもそうか。
ちなみに、レイカちゃんはかなり危ないラインにいるらしい。
最近ほかの幽霊たちの間で彼女の処遇について相談中だそうだ。
……彼女なら何度追放しても戻ってきそうだけどね。
「そういうわけだから、2人には会えないんだ。おじさんシンゴに絡まれそうだし」
そう言ってクスクスと嫌な笑い方をする霞くん。
わたしが「何で?」って聞くと霞くんは「だって、おじさんだらしないんだもん。シンゴはそういう人嫌いなんだよ」と答えた。
だらしない……か。よし、聞かなかったことにしよう。
「さて、霞くん本題に戻ろうか」
有無を言わさない口調でわたしは言った。
そんなわたしの無理やりな話題転換に霞くんはまたもやクスクスと笑った。
なんだか、ほかの幽霊たちも笑ってる気がする……聞こえないはずなんだけどなんとなく聞こえる……チキショウゴーストどもめ。
そんなわたしの様子を見て、最後にもう一笑いしてから霞くんは語り始めた。
なぜ、彼に5人もの幽霊が憑りついているのか。実に気になるところだ。
このアパートにはほかにも住民はいるはずだ。それなにのなぜ……霞くんをチョイスしたのか。
「僕はね、幽霊を呼び寄せてしまう妙な体質なんだ。どうしてかは知らない……気が付いたらこうなっててさ。幽霊たちにとって、僕の体は憑依しやすい絶好の対象なんだよ」
霞くんは淡々と語る。
なるほど……霊媒体質というわけだ。
わたしとしては、生まれてから何らかの理由があってこうなったものだと思っていたのだが、どうも生まれつきな先天的なものらしい。
「なるほどね。霞くんのその体質は生まれつきのモノなんだ」
しかし、わたしの言葉に霞くんは首をかしげる。なぜに?
「それがどうも微妙なところなんだよね。今のところ、僕自身がその情報を把握出来ていないから説明しようにも出来ないんだよ」
「つまり、霞くん自身まったく理解出来ていないわけね?」
「まあ、そういうことになるねえ」
なんと軽い……原因が分からず、不安じゃないのかい?
でも、そんな言葉は口にしない。
だってこの不思議な暮宮少年がその程度のことを不安がるとは思えないのだもの。
だから、わたしは別の質問をすることにした。
彼の生い立ちについてだ。今までどんな生活を送って来たのか……そこが非常に気になるところだ。いったい、どう育てばこれほどの不思議ちゃんになるのだろうか。きっとそこに彼が霊媒体質になった理由が隠されている。
「そういえば、霞くんここに来る前はどんな生活を送っていたんだい?」
わたしの言葉に霞くんは自嘲気味な笑みを浮かべた。
「それもね、分からないんだよ」
「なんだって?」
あれ……どういうことだ。
霞くんは、生まれてからずっとここに住んでる?いや……もしそうなら、分からないなんて言うはずがない。
じゃあ、つまり本当に分からないのか……記憶喪失かね?それとも別の何か……。
「ぼくはさ、ここに来る前のこと何も知らないんだ。自分の名前も、年齢も。何もかも」
そう語る霞くんの顔は微かに寂しげだ。
でも、ひとつ引っかかるところがある。
「ちょっと待って。君には暮宮霞って名前があるじゃないか」
わたしが言うと霞くんは、これまた自嘲気味に肩をすくめた。
「それはね、ここの大家さんが付けてくれたんだ」
「大家さん?」
「うん。とってもきれいな女の人だよ」
とってもきれいな女の人……ちょっと、会ってみたいかも。
しかし、その時わたしの脳裏をある1シーンが横切る。
それは、めぞん跡地に来た時のこと。
あの時、わたしはきれいな女の人に睨まれた。もしかするとアレが大家さんなのかもしれない……でもこんな幽霊屋敷の大家さんがはたしてふつうの人間なのだろうか。
もしかすると、あの女の人は実は魔女で……、となるとマズいな。あの時わたしは呪いで殺されていたかもしれないということだ。いや、まだこのアパートにいる内は油断出来ない……もしかしたら気が付かないうちに呪いをかけられているかもしれないからだ。
ううむ恐ろしい……。
「おじさ〜ん。おじさ〜ん帰ってきてぇ〜」
気が付くと、霞くんが呆れたような表情になってわたしの前で手を振っていた。
おっと、わたしとしたことがうっかり別の世界に行ってしまっていたらしい。
わたしが、コチラの世界に帰還したのを見届けると、霞くんはやけに大げさな仕草で「やれやれ」と肩をすくめてみせた。
「おじさん、ひょっとして何か妄想でもしてたの?」
なんてことを言うんだ君は……!わたしに限ってそんなことあるわけないだろう。いや、たぶん……きっと。
「そ、そんなわけないだろう!イヤだなぁ、霞くんは」
なんて、言ってみるが自然と声が震えてしまう。
うぅ……これじゃあ、自分で墓穴を掘ってしまっているなぁ。
そんなわたしの無様な様を見て、霞くんはケラケラと笑った。良いかい。「あははっ」でも「ふふふっ」でもなく「ケラケラ」だからね。ここ重要。
「でも、あの大家さんは止めといた方が良いと思うなぁ」
なんて、意味深なことを言うんだ。
「どうして?」
わたしの言葉に霞くんは肩をすくめる。
「だって、あの大家さんどう見ても人間じゃないもん。おじさんなんか一口でペロっと食べられちゃうよ」
マジかよ……わたし結構危ない橋を渡っていたんですね……でも、やはり信憑性に欠ける話だなぁ。あんなに細い女の人がわたしを一口で呑み込めるかね?
でも、そんなことを考えても無駄だということをわたしはすぐに悟る。そうだ、ここは幽霊屋敷。何が起きても不思議じゃない。人知の及ばない世界なのだ。
だから、わたしは大家さんについてそれ以上聞かなかった。
「へぇ、そうなんだ」
そんなわたしに霞くんは意外そうな顔をする。
「意外だなぁ。てっきりおじさんならもっとネチネチしつこく聞いてくるかと思ったのだけど」
「ふふん。わたしもそこまで子供じゃないのだよ暮宮少年」