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幽霊屋敷の少年は霞んで消えて

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ポッコリ浮かぶ真実


しばらくして、霞くんは呆れたように頭を押さえた。
……なんだい、自分の秘密が論破されて頭痛がするかい?
「おじさん」
霞くんがじっとわたしを見つめて口を開く。
「なんだい」
言いながらわたしはニヤリと笑う。
さあ、どうぞわたしの推理を認めてくれたまえ。
「バカ」
「へっ?」
霞くんがなんと言ったのか、わたしにはわからなかった。いや、理解できなかった。
バカ……それは漢字にすると馬鹿と書く。
愚かな者に対して、見下して言う言葉だ。
それを、なぜわたしが言われるのか。
言葉の意味を理解出来ていないわたしに対して、霞くんは言う。
「もう一回言わないとわかんないのかな。バカ。アホ。マヌケ。おじさんはさ、大きな勘違いをしているよ」
わたしはゴクリと固唾を呑み込む。
「……どんな勘違いだい」
そんなわたしの言葉を聞いて、霞くんはまた頭を押さえる。
やれやれ、まだ理解出来ないのかい。とでも言いたげに。
「ぼくが多重人格だってこと。アレ、間違い」
「なっ……ふえっ?……あれ、それってどういう……ほえっ?」
やばい、頭が白黒するぜ……。つまりは、どういうことだ。
わたしの推理が根本から間違っていた……。
いや、それくらいわかるよ。でも認めたくない!あんなドヤ顔したのに……のわぁああああああああああああああああああああ。
霞くんは、さらにご丁寧に指摘してくれた。
「だってさ、思い返してもごらんよ。プリーズ回想。ぼくは一度もおじさんに自分が多重人格者だと言ったことも、示唆したこともないんだよ?」
うむ……言われてみれば。認めざる得ない……チキショォオオオオオオオオ。
「だから、つまりはおじさんが勝手に妄想して妄想して妄想して妄想して妄想して妄想して妄想して妄想して妄想して、もう妄想しまくってドヤ顔でそれを推理にしてしまったわけ。わかる?」
何回、妄想って言葉を使うんだい……。せめて推測と言ってほしいね。そこまでおじさんをいじめて楽しいかい……暮宮少年。
「じゃあ……じゃあ、何者なのさ……多重人格じゃないなら……なんなのさ、ケンタくんとかレイカちゃんとか……一体……一体……」
今にも泣きだしそうな声で、わたしは言う。
ああ、実に情けない……穴があったら入りたいよ……それが火山の噴火口だとしても……うう……。
そんなわたしを横目で見て、霞くんは「やれやれ」と呆れたように頭を振る。
「しょうがないなぁ。物わかりが悪いおじさんに、特別に種明かししてあげるよ」
「ぜひ……お願いします」
わたしが、弱々しく言うと、霞くんは実に腹立だしい大げさな動作で「了解」の意を示して見せた。
「それじゃあ、話すよ。まずさっきぼくが言ったケンタがすでに死んでいるという話は本当」
霞くんがわたしの反応を確かめるように間隔を空けたので、わたしは1つ頷いて見せた。
「もちろんレイカも死んでいる。おじさんはまだ会ったことがないと思うけど、雪子もシンゴもミゾレ様もみんなこの世に彷徨える魂」
ごくり……喉を鳴らす。やはり幽霊というのは実在するのか。
霞くんが幽霊じゃないのは分かった。だがしかし、逆に霞くん以外の者たちが皆幽霊であることは確定されてしまったのだ。
本人が認めてしまったのなら反論の余地はない。
「みんな、もともとここに住んでいたのさ」
そういって霞くんは床を指し示す。
それはつまり……ここ、めぞん☆跡地のことだ。
なるほど、霞くんに憑依している幽霊たちは皆かつてここに住んでいた者たちなのか。
前の住人が新しい住人に憑りつく。……よく聞く話だ。
だが、ほとんどの話が住人を不幸にするのに対して、彼の場合は幽霊たちとなんとかうまくやっているようだ。いや、むしろ楽しそう。
「もっとも、ミゾレ様はここが出来るずっと前から棲んでいる古株さんなんだけどね」
「どういうこと……?」
ミゾレ……漢字で書くとすると霙だろうか。
どんな字を書くにせよ、まだミゾレ様にはお目にかかっていない。
はたして、どんな人物なのだろうか。
霞くんが様を付けるくらいなんだから、よっぽど偉い人なんだろうな。
将軍様とか。……さすがにそれはないか。
「ミゾレ様はね、ずっと大昔にここに建っていたお城の殿様なんだよ」
殿様ですとぉおおおおおおおおおおおお!?
急に幽霊のスケールがデカくなったぞ。
今まではケンタくんやレイカちゃん……少なくとも現代人っぽい幽霊だった。
それが唐突に大昔の落ち武者……いや、殿様か。
突然、そんなことを言われてもあまり納得出来ない。
直接会ってみない限りは……。
と、そんなわたしの考えを見透かしたように霞くんは笑った。
「分かってるよ。幸いにも今ミゾレ様はこの部屋にいる。ちょっとお話してみると良い」
なんですとぉおおおおおおおおおおおおおお!?今この部屋にいるですって!?なんということだ……何か失礼な仕打ちはしていないだろうか。ひょっとして打ち首……そんなことになったらあわわわ……。
霞くんが、「それじゃあミゾレ様。客人が話したいと言っていますので」と言うとすぐに彼の目が虚ろになり髪飾りの点滅が再び始まった。
髪飾りが紫色へと変わり、権力者としての威厳を漂わせた霞くん……いや、ミゾレ様はゆっくりと閉じていた目を開いた。
わたしは思わず面を伏せてしまう。
そんなわたしを見て、殿様はほっほっほと笑った。
「良い良い。顔を上げよご客人。たしかに麻呂は昔、殿であったが今はただの一幽霊に過ぎぬ。あまり硬くならないことじゃ。こちらとしても話ずらい」
そう言われたので顔を上げてみる。
……すると、思い描いていたモノとは違って、ミゾレ様は優しく微笑んでいた。
なかなか、陽気な方らしい。
「ほっほっほ。そうじゃ、そうじゃ。では、まずはあいさつをさせていただこうかの」
そういうと、ミゾレ様は一歩下がって、背筋をピッと伸ばすとそのまま体を前に倒し頭を垂れた。
……いわゆる土下座の姿勢である。
ええ、殿様がこんなことして良いの。
「麻呂の名前はミゾレと申す。かつてはここにあった八雲ノ城の殿であったが、今は霞の体に世話になっている。ほっほっほ、なかなかに若い体というのも良い物じゃ。たまに、霞の体を借りて散歩に行くのじゃがな、これがまたなかなかに楽しくてな。時代の進歩をひしひしと感じさせてくれる」
……案外、弁舌なおじいちゃんだ。
それから、ミゾレ様は朝の散歩がどれだけ気持ち良いか、近所の団子屋さんがどれほどおいしいかなどなど、を長々と語ってくれた。
この人はこの人で、今の時代に適応してるんだな、とちょっと関心。
殿様だから、ちょっと硬い人かな、と思っていたけど、案外気さくな人みたいだ。
ミゾレ様は最後に「それでは、これからどうぞ、よろしく頼むぞよ」と言ってもう一度頭を下げ、締めくくった。
再び髪飾りが点滅し、体は霞くんの元へと戻る。
「……どうだった?案外気さくな人でしょう?」
そう言って霞くんは肩をすくめて笑った。
「ミゾレ様はね、ああ見えて結構のんびり屋なんだよ」
「ああ、そうみたいだね」
わたしも霞くんに釣られて笑う。
「それで、どこまで話したっけ」
「みんながここに住んでる幽霊だって話」
「ああ、そうだったね。途中でちょっと話が逸れちゃったみたい」