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その後の、とある日曜日の話

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靴磨きとランチを共に




「秋緒ちゃん」
お昼に会うのは珍しいね、と知り合いの声がした。いつもは学校に行くときぐらいしか通らない駅前通り。振り向くと、私のメッセンジャーバッグより少し小振りの鞄に色々と荷物を詰め込んでいる男の子の姿があった。あれ、えっと、誰だっけ。名前が出てこない。ちょっと生意気そうな表情、わたしより少し年下の彼。えーっと…
「ああ、リンゴの……あんたこんなところで何やってるのよ」
「オレ?朝の一仕事終えて今から昼飯。秋緒ちゃんは?バイトじゃないの?」
「今日はお休み。これから朝ごはん食べてレポート書くところ」
ふーん、と相槌を打ちながら小さい折りたたみ式の椅子をかしゃんと金属音を立てて片付ける。随分詰め込んでるみたいだけど、よくあの鞄の中に入れてるもんだわ。じりじりとした日差しが、わたしと彼を容赦なく照り付けている。首筋を汗が伝うのがわかった。
「一仕事、って、リンゴ?」
「靴磨き。秋緒ちゃんの靴磨こうか?」
それ、と言ってわたしのギリギリパンプスに見えなくも無いウオーキングシューズを指差した。わたしはとびっきり嫌な顔をして向けてやる。
「冗談も休み休み言いなさいよ。高かったのよ、これ」
「高そうだから言ってるんじゃん」
「磨いてみなさいよ」
ホラ、と右足を差し出してみる。彼は、一瞬ふっと笑ったような気がした。そして、一度は閉じた鞄のファスナーをジジジと音を立てて開けると、なにやらブラシのようなものと布を取り出した。さっさと優しく布で靴の表面を撫でる。へえ、イメージしていたのとは違うものね、…って革靴と違うんだから当たり前か。あっという間に布で汚れをとり、ブラシでホコリを払うと「左足も出して」と催促されてしまった。ジリジリと照りつける夏の日差しの中で、額には汗が浮かんでいるのが見える。なんだこの子、働いてるんじゃない。なんて、そんな当たり前すぎることを今更思った。左足を払い終えると、鞄の中からラベルの付いていないスプレーを取り出してシュッと仕上げのように掛ける。足に掛からないよう、しっかり手を添えるのも忘れずに。
「防水スプレー、サービスしとく」
「…靴磨きって職業を誤解してたわ」
「革靴しか磨かないと思ってた?」
図星を突かれて、思わず言葉に詰まる。磨いてもらった靴は、下ろしたてのように――とはいかないまでも、随分と綺麗になってる。ここまできて、随分汚れてたという事実に気付く。駄目だなぁ、これでもオンナノコなのに。
「で、いくら?」
「はいはい」
口から出てきた金額に、財布の中身を見る。あ、やば。小銭無い。
「…何、お金無い?」
「うっるさいわねぇ…無いのは小銭」
「お釣りあるよ」
小銭入れを出そうとしたその手を、「いい」と言って制するとわたしは少し先に見えるファミレスを指差した。マックじゃ流石に、格好付かないからね。

「来なさいよ、お昼これからなんでしょ」
靴磨き代奢るわよ、と言うと、彼は言葉に似合わず無邪気に笑った。

「ありがと、秋緒ちゃん!」
「……あんたって、ほんっとーに現金ね」