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その後の、とある日曜日の話

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「珍しいねえ、秋緒が休日を忘れるだなんて」
「最近マトモに眠れてないの、曜日感覚だって狂うわよそりゃあ…」
朝起きてバイトに行き、夜は学校に行く。こんな生活を、わたしは八月になっても尚続けていた。それもこれも、一学期に色々とサボりすぎたせいで補修を受けているからなのだけど。流石に毎日通っているわけじゃないけれど、家にいると課題となってるレポートがはかどらないから結局学校やネットカフェに行って書いていることが多い。学校って、平日は案外先生いるものなのよね。図書室なんかは、普通に開いてたりするし。
 そんなこんなで、わたしは今日が学校はおろかバイト先の工場ですら定休である日曜日だと言うことをすっかり忘れていたのである。今週はお楽しみを我慢していたから、というのもあるのかも。
 電話の向こうの声の主――楠木鹿乃子(くすのき かのこ)、通称かのこは、「めっずらしー!秋緒が睡眠時間削るなんて!」なんて笑っている。何笑ってるのよ、あんたと進路別れた後はそういうことは珍しくないんだからね。なんて毒づくと、かのこはころころと転がるような声音で華麗に私の言葉をスルーした。
「ねえー秋緒さあ、映画観に行こうよ」
「パス」
「即答!?ひどいっ」
その言葉に、わたしはハァと一度溜め息を吐いた。だって、映画なんて今の状態で行ったら寝るに決まってるもの。そう言うと、かのこはそれでも「そう言わずにさあ」とせがんでくる。
「和磨に付き合ってもらえばいいじゃない」
「…なんでそこで和磨が出てくるのよぉ」
かのこの彼氏の名前を出した途端、声のトーンが一段階下がる。わたしはベッドの上に腰掛け、扇風機の風を浴びながら髪の毛をがしがしと拭いた。ああ、なんだ、喧嘩したのね。
「喧嘩したのなら、早めに謝っちゃったほうがいいわよ」
「えーっ、なんで私が謝らないといけないわけ!?」
「どうせまた勝手に携帯見たんでしょ」
そう言うと、ぐっと口ごもるのがわかる。図星か。幼馴染に対して言うべき言葉では無いかもしれないけれど、本当にいつもワンパターンの喧嘩をしてくれる。かのこが携帯電話を見て、一通でも女の子とのメールが紛れてたら喚く。この子は、昔からこういう子だ。高校から女子高に通い今も尚持ち上がりで女子大に通っているせいか、ほんの少しの世間ズレが出来てしまったのだけど。中学まで同じで、あの頃はただ純情で可愛いだけの女の子だったのになぁ。
 かのこは携帯の向こうで半泣きの声を上げる。
「……秋緒ぉ、私たち、本当にもう駄目かも……」
「その台詞、前回も聞いた気がするんだけど」
「相手は高校時代の後輩なんだって!でもあいつ野球部だったのよ!?女の子の後輩って可笑しくない!?」
「マネージャーだったんじゃないの?」
「しかも、『先輩へ 試験頑張ってくださいね はぁと』なんて絵文字たっぷりで送ってきてるのよ。もぉ信じられない」
「どこがどう信じられないの、ニ行にも満たないじゃない。女友達の一人も許さないのはわかるけど、目くじら立てすぎじゃないの」
そこまで言ってから、しまった、と思った。いけない、言い過ぎた。電話の向こうで、かのこが黙っている。かのこ?と、呼びかけると、「秋緒冷たいっ!もういいよっ!」と、電話をブチリと切られてしまった。あーあ、やっちゃった。面倒くさいのよね、かのこと喧嘩するの。もう慣れっこだけどさ。
 わたしはとりあえずメール画面を開き、『ゴメンね、言い過ぎた』と、既に用意された定型文から呼び出して送る。と、かのこは大抵ほんの少しごねて機嫌を直すのだ。いい加減文面が毎度同じなことに、気付いてもいいと思うんだけど。
 わたしはひとまず、机に作業しっぱなしのまま放置してあるレポートの資料を大雑把にA4のファイルに挟んで、ノートパソコンもろともメッセンジャーバッグに押し込んだ。近くのマックにでも行って、朝ごはん食べがてら少し進めよう。どうせ今更眠る気にもなれないし。眠いけど。今寝たら、何時に起きるかわかったものじゃないわ。どうせ寝るなら、レポート終わらせてから眠った方が気分もまた違うし。

「…行ってきます」
誰もいない部屋に向かってそう呟くと、わたしは部屋の扉を閉めた。