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その後の、とある日曜日の話

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 結局、レポートはほとんど進まなかった。目の前の靴磨き――リンゴ売り?には、妙な力でもあるんじゃないかと思うほど、人の話を引きずり出すのが上手い。その代わり靴磨きの話も少し聞かせてもらったのだけど。正直なところ日曜日はあまり儲からないとか、だからこそわたしの誘いに乗ったのだとか。
 給料日直後だったわたしは、とりあえずランチセットをしっかり奢ってやることにした。本当に靴磨き代金スレスレのパスタを頼もうとしたところに、わたしが勝手にセットをつけてやった。やった、と言うのは語弊があるかもしれないけれど。半ば無理やり?まあ、靴も磨いてもらっちゃった訳だし、日常的にちゃんと食べてるようには見えないし。ここ最近の相次ぐ出会いのうちの一人であるこの靴磨きに、少し興味があるのも、まあある。
 セットの最後にやってきた小さなティラミスを口に運びながら、彼は言った。

「それにしても休日の日曜まで出かけるなんて、秋緒ちゃんあんまり家が好きじゃないとか?」
「今日はたまたまよ、家にいてもレポート進まないから」
「…もしかしてオレ、すっげえ邪魔?」
「かもね」
えー今更!?デザートまで食わせておいて!?と無駄に大袈裟に反応するその姿はそこらの高校生と何ら変わらない気がするんだけど。何か、変なのよね。無邪気さが無いと言うか、妙に落ち着いちゃってると言うか。この年で、ここまで相手の素を引き出すことが上手いということは、ほんの少し癪に障る。
 ティラミスをあっという間に食べきると、わたしをじっと見てアイスコーヒーを啜る。
「何よ」
「食べてる姿はオンナノコだなぁって」
「わたしはね、 オ ン ナ ノ コ なのよ」
「うん、今そう思った」
珍しく素直に返ってくる言葉。そのままアイスコーヒーを飲みきると、ふう、と一度息を吐く。
「ご馳走様でした」
「はいはい、お粗末さまでした」
「秋緒ちゃんどうする、レポートやってく?オレ午後の仕事あるからもう行くけど」
傍らの荷物を肩にかけ、わたしを振り返る。ん、とわたしは頷いて、小さく手を振った。
「少しは書いていくわ。そのために来たんだし」
「じゃ、ほんとにご馳走様でした。ありがとう、またね」
彼はそう言うと、ひらひらと手を振って店を出て行った。礼儀も妙にしっかりしてるのよね。接客やってるから当たり前と言えば当たり前なのかもしれないけど。
 あ…そういえばわたし、あの子の名前、知らないんだった。普通に「またね」なんて言ってくれたけど、また、なんてあるのかしら。……あるのよね、きっと。今日だってたまたま会えたんだし、何となく…そんな気がするわ。

「…さて」
少しでもレポート、やっつけないと。わたしは鞄の中からノートパソコンを取り出して一度深呼吸した。