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仁科 カンヂ
仁科 カンヂ
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天上万華鏡 ~現世編~

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 春江は光の衝撃に耐え、その場から吹き飛ばされないようにするだけで必死だった。目を閉じても心に直接光が届く。何をしても耐え難きまばゆさから逃げることができない。困っているところに、コノハナサクヤヒメの言葉が響いた。
「私は神である。神の威光をその身で浴びよ。体を焦がし穢れを祓え。私の威光に耐え、私に近づけた者こそ栄光を得ることが許される」
 コノハナサクヤヒメはただそこに存在するだけである。何もしていない。ただ霊格の違いから春江はコノハナサクヤヒメに相対することができないだけなのである。
 春江は他の試練と時と同様に、痛みを感じている我から離れて自然と一体化しようとした。しかし、コノハナサクヤヒメの光はどこまでも春江を追いかけていく。心の隅々まで照らすものなのである。我から離れたぐらいで逃れられるものではなかった。
 春江は痛みから離れることを諦め、受け入れることにした。しかし、痛みを負うことよりも春江を苦しめたものがあった。
――――怖い……
 春江は言い様のない恐怖にさいなまれていたのである。コノハナサクヤヒメの光は春江を攻撃しようとする敵意がなかった。むしろ春江に対する愛で溢れていた。しかし、その愛は、春江を震え上がらせるほどの威圧感として届いていた。
「畏敬の念」
 この言葉が春江の心境を言い当てるものだった。畏れ多すぎて恐怖を感じる。ここにきて春江はこの場から逃げ去りたいという気持ちが支配しようとしていた。
「ここで去るのか? 城島春江。汝の志はその程度のものか?」
「…………」
「汝は、人間全てを救うのであろう?」
「はい」
「そのために、天使になるのであろう?」
「はい」
「だったら、私の威光に耐え、更に汝自ら光を携えよ」
「私自ら?」
「左様。威光は天使としての力なり。力とは即ち、人を救う源なり」
 春江の目に火が灯った。眼光鋭くコノハナサクヤヒメを見つめた。光が強すぎるため、コノハナサクヤヒメの姿を確認できないまでも、光から逃げずにむしろ立ち向かったのである。
 一歩一歩春江は歩いていった。恐怖のため、体を震わせながらも、確実に進んでいった。光が体を貫くあまり、高熱になり、しまいには体から煙があがってきた。
 体が発火するほどの熱を感じながらも春江は動じなかった。これまで何度この身を焼いたことか。痛みは最早春江の障害になりえなかった。
 コノハナサクヤヒメに近付くにつれ、春江に突き刺さる威光は熾烈を極めた。恐怖は春江の脳を犯し、発狂寸前にまで追いつめられた。春江は自らの存在が壊れ消えていくのではないかと思う程、自らが壊れていく様子を生々しく実感していた。
「ここで消えるのか城島春江。誰一人救う間もなく消えていくのか? 踏みとどまれ城島春江。汝の行く末により、人が多く救われるか否かが決まるであろう」
 コノハナサクヤヒメの言葉を聞いて春江は決意した。
――――私が人を救うんだ。私が助けるんだ。だから私は負けない!
「うおおおおおおおおおぉぉぉ!」
 天に向かって力一杯吠えた。恐れる自分を全て飛び消すが如く。穢れを全て流すが如く。全ての迷いを断ち切るが如く。
 全てを飛ばした後にゆっくりと前を見ると、コノハナサクヤヒメの姿がはっきりと見えた。
――――眩しくない……
 落ち着き払った春江はこれまでの恐怖や痛みから完全に解放されているのを実感した。そしてふと自分の体を見ると、微弱な光で覆われていた。
「汝が纏うその威光。ゆっくり育むがいい。威光は力なり。力とは即ち、人を救う源なり」
 春江はゆっくりコノハナサクヤヒメに近づくと、手にある玉を受け取った。コノハナサクヤヒメはにっこりと微笑み、労いの言葉をかけた。
「よく頑張った。参事が認めた者だけある。汝の夢が叶うよう、これからも邁進すべし」
 この言葉を聞くと同時に、まばゆい光に覆われ意識を失ってしまった。気付くと入り口の狛犬の側にいた。そして春江の首には千回詣をやり抜いた証である玉がかけられていた。