悪魔の微笑みの男
「気持ちが少し熱い」
ということで、組織としては、
「利用しにくいところもある」
と、一抹の不安を感じている幹部もいたことだろう。
実際に、
「鉄砲玉」
ということで、一度、人を刺したことで、有罪になったことがあった。
ただ、
「殺人未遂」
ということで、数年の刑で出てくることができたのだが、その間に、道子に子供ができていたということは知っていたが、生まれた子供のことは知らされることはなかったのだ。
すでに、道子は実家に匿われていて、出てきた父親に対し、組織は、本来であれば、
「幹部候補」
ということになるのだろうが、なぜか、
「破門」
を言い渡されたのだった。
というのは、道子の実家は、金持ちということで、裏の世界とも、それなりに繋がりがあった。
もちろん、表向きには、
「まっとうな会社」
を、コンツェルンということで経営しているのだが、その裏には、いくつかの組織を抱えていた。
会社にも、子会社、孫請けまで含めると、たくさんの会社がある。それを守るための、
「影の組織」
というのもたくさんあるわけで、実は、父親が所属していた組織というのは、その、
「下部の方の組織」
ということで、とてもではないが、母親の実家の組織は、父親が所属していた組織から見れば、
「太刀打ちできるわけはない」
ということだ。
だから、母親の実家の圧力で、父親の立場など、虫けら同然ということで、簡単にその存在を葬り去られる形だった。
当然、最後には何もなくなり、自殺をしたということだったのだが、
「殺された」
といっても不思議ではない。
ただ、父親というのは、
「本当の虫けら」
ということで、自分が満足するためには何でもするという、
「頭の弱い」
といってもいいやつだったのだ。
だから、その頭の弱さを、ただ、
「単純だ」
として一刀両断にしてしまうには、これほど、やりやすい男はいないということであった。
つまりは、
「人を葬るにしても、心のどこかに後ろめたさ」
というものがあり、躊躇してしまうことから、
「いくら殺し屋とはいえ、相手によって、気持ちがぐらつくこともある」
という話を聞いたことがあった。
だが、この男は、そんな後ろめたさを感じることがないということで、
「葬ろう」
と考えたとすれば、そこに躊躇はないということで、実際に行動はしないだけで、
「この男を狙っている連中は結構いたかも知れない」
ということであった。
しかし、だからといって、殺してしまうほどの表向きの理由があるわけではない。皆、殺意を持っていたとしても、それが、一般的に許容されるというものではなく、しいていえば、
「殺してしまうほどの動機ではない」
という人はたくさんいたということであった。
だから、
「俺たちが手を下さなくても、自分から死んでくれた」
というのは、
「実によかったことだ」
と言えるのではないだろうか。
それを考えると、
「追い詰めるのは誰であってもいい」
というわけで、そういう意味で、この男が死んだことで、実際に悲しむという人は、ほとんど誰もいなかったということであった。
実際に自殺だったことで、警察も、
「事件性はない」
ということで、さほどの捜査はしなかった。
形式的な経歴くらいは調べられ、
「とんでもない男じゃないか」
とは思いながら、当時のチンピラには、こういう男は結構いたということで、
「一人の虫けらが自殺した」
ということで、すべてが、形式的に片付けられたのだ。
この男の遺物を引き取る人もいなかった。
実際には、家族も親戚もいるにはいたが、高校時代に家出したところまでは分かっているが、
「どうせチンピラにでもなっているんだろう」
と、家族も分かっていたようだった。
家にいても、暴力をふるったり、ものに当たったりして、暴れん坊として手が付けられない状態だったので、家族も、
「出て行ってせいせいした」
とばかりに、誰も探そうとはしなかった。
むしろ、
「自分から死んでくれたら、社会のため」
ということで、実際にそうなったのだから、逆に、
「うちとはかかわりがない」
ということで、警察からの遺骨や遺品の引き取りを拒否するということになったのだ。
となると、後は、
「無縁仏」
ということで、処理されるだけである。
「かわいそうだ」
という人もいるかも知れないが、この男の生きてきた歴史から考えると。
「それもやむなし」
ということであった。
それだけ、
「こんな男はたくさんいる」
ということで、誰も気の毒に思わないというのは、警察とすれば、
「今までにそんな男ばかりを見てきた」
ということになるだろう。
むしろ、死んだ人間よりも、生き残っている人間の方が問題で、男に姉妹がいたとして、結婚したいと思ったとしても、相手の家に調べられると、
「婚約破棄」
ということにだってなりかねない。
実際に、今までにそういうこともたくさんあったことであろう。
「家族のことが、本人たちの結婚に影響するなんて」
と、今の人であれば思うかも知れないが、昭和の頃までというと、
「家同士の結び付き」
ということで、
「お互いの家族が、相手の家族を興信所を使って調べる」
などということは当たり前にあった。
むしろ、
「調査をしないで後で分かった方が、罪は重い」
とまで言われていたほどであろう。
つまりは、
「結婚というものは、そんなに甘いものではない」
ということだったのだ。
この父親には、姉妹がいて、実際に婚約まではしたのだが、やはりというか、当然のように、相手から一方的に、
「今回のことはなかったことに」
といって。婚約を破棄されたのだ。
この時は、
「弁護士が途中に入った」
ということで、
「その理由が兄にある」
ということはハッキリと分かることだったのだ。
だから、
「兄のせいで、家族がバラバラ」
ということになり、
「父親は、自殺をしても、この世で、永遠に迷惑を掛けている」
という男だということになる。
そういう意味で、
「虫けら」
と言われても仕方がないと言えるだろう。
だから、最初、
「母の実家の方としても、お腹の中の赤ん坊を処分しようか」
ということで悩んだという。
しかし、母の強い意思と、
「さすがに子供にまで因果を含ませるというのはかわいそうだ」
ということで、子供はおろさないということになったのだ。
実際に、
「実家には、昔から続く家系というものがあり、こんな男の血を入れるのはということで悩むことにはなったが、母は一人っ子ということで、どうしても子供がほしい」
と考えられたのだった。
ただ、昔から続く家系とはいえ、
「血のつながり」
というものに対しては、ミステリー小説などにあるほど、考えられているというわけではなかった。
つまり、
「家系さえ途絶えなければ、血のつながりはあまり関係ない」
という、表向きな考えがあるだけだった。
それこそ、
「ドライな考え」
といってもいいだろう。
母親もそのことは分かっていて、



