詐欺事件のフィクション
「それは興味深いことだね。ただ、彼が被害者だということになると、そのあたりに矛盾というものが出てくるのが、何か気になる。もし、その話は事実だとすれば、辞めた後も取り合っている連絡の中で、何か工場側に不都合な事態が勃発したのかも知れないな。そもそも、経営不振というのは、最初から分かっていて。だからこそリストラされたというのが言われていることなので、この矛盾から、今まで言われていたということに、嘘があったと考えることもできるわけで、そうなると、果たして山形が会社を辞めることになったのは、本当にリストラなのかと考えられるのではないかと思うんだよ」
と、いうのだった。
「実は、私も今回の聞き込みで、そのことが気になってしまったんですよ。そうなると、この事件というのは、最初から考え直す必要も出てくるということになるんじゃないですかね?」
と捜査員が言った。
「うーん」
と言いながら、捜査主任は考えていたが、少なくとも、
「今までの最初に見えた内容の裏付けだけを取るような捜査をしていては、肝心な真実というものを見失ってしまうかも知れない」
ということを考えるようになったのだった。
どうしても、気になるのは、
「工場を倉庫として貸し出した」
ということに対して、
「山形が反対していた」
ということである。
普通に考えれば、
「会社が得をする」
ということであれば、手放しに喜んでもいいということである。
実際に、
「詐欺グループ」
として、
「社会問題になっている」
ということではあるが、実際に、その問題を気にしているというのは、
「この業界に関係している人たち」
ということで、実際に、被害に遭っているというのであればいざ知らず、そうでないのであれば、
「そんな問題が起こっているんだ」
というだけのことで、普通なら、
「他人事」
ということで片付けられるというものであろう。
それを考えると。
「この事件を、この工場の人が知っているわけもない」
といえる。
そもそも、気になっているのであれば、最初から、そんな連中を相手になどしないだろうということである。
つまり、
「何か問題になっている業界がある」
ということで、それが、出版関係ということくらいは意識していたとしても、
「まさか、それが今回話を持ってきたところだ」
とは、夢にも思っていなかったということであろう。
ただ、
「自分たちも火の車」
ということで、
「救いになりそうなものがあれば、喉から手が出るほどほしい」
と考えることだろう。
「簡単に騙される」
というのも、無理もないということになるのではないだろうか?
そんな、
「簡単に騙される」
というような会社を狙って、最初から詐欺会社とすれば、
「倉庫として使おう」
と考えたのかも知れない。
「なるべく在庫ができると分かった時から、この在庫を表に出してはいけない」
と思うようになったのかも知れない。
もっとも、
「詐欺出版社」
というものが、
「在庫が膨れ上がって、倉庫を借りなければいけないことになる」
ということを予見できていたというのだろうか?
ただ、実際に自転車操業をしていて、
「売れるはずのない本を作っている」
ということで、自分たちがやっていることが詐欺であるということも分かり切っているであろうから、在庫が膨れ上がるということも分かり切っていることであろう。
ただ、それでも、
「会員を募って。どんどん本を作らせないと、自転車操業なので、すぐにいきづまる」
ということは分かり切っている。
だから、
「どこで、身を引くか」
ということが大切だということなのだろうが、引くことができなかったということが、彼らにとっての、一番の誤算だったということになるだろう。
ということは、
「退路がない」
ということで、こうなれば、
「いけるところまで行くしかない」
ということで、
「破綻は確実に見えてきた」
ということになるのであれば、
「いかに、被害を少なく収めるか?」
ということが問題であり、実際に、
「ヤバい」
と感じたあたりから、
「弁護士に相談していた」
ということをしていたかも知れない。
そのあたりの裏の事情は、警察の捜査で分かることではなかったが、次第に調べてみると、今まで見えていたものと少し違った様相を呈してきたということになったようだ。
それは、被害者と思しき、
「山形」
という男の素性を調べていくうちに分かってきたことであり、そこには、
「結局、最後まで、詐欺グループの悪事というものが、関係してきている」
といってもいいのではないだろうか?
大団円
山形の線から調べてみると、出てきた話として、
「別れた奥さんが、以前から、文芸に興味を持っていて、いずれ本を出したいという夢を持っていた」
ということを聞いたからだった。
「奥さんは、詐欺に引っかかったのでは?」
ということで調べてみると、なるほど、
「詐欺出版社に原稿を何度も送っていて、最終的に、S出版社から、本を出した」
ということだったようだ。
「S出版社」
というのは、この、
「自費出版社系」
と呼ばれているところでは、一番の大手と言われているところであった。
いわゆる、
「ナンバー2」
と言われているところで、実際に、ケミカル工場を倉庫に使いたいといってきたのが、そもそも、そのS出版社だということであった。
彼らとすれば、
「在庫は山ほどあり、それを隠さなければいけない」
というジレンマから、
「数多くの工場と契約をする必要がある」
ということであった。
「少ない工場に大量に在庫を抱えるよりも、少ない数の在庫をたくさんの場所に持つということの方が、詐欺として告発された時、在庫の持ち方で少しでも、有利な話ができるのではないか」
ということのようだった。
その考えを授けたのは、
「弁護士」
ということのようで、そういう意味でも、
「詐欺出版社の連中」
というのは、結構早い時期から、
「自分たちは危ない」
ということを感じていたということであろう。
もし、
「うまく撤収することができた」
ということであれば、この詐欺商法というのは、完全犯罪だったといえるのではないだろうか?
逆に考えると。
「この手の犯罪が、最後にはちゃんと露呈されることになる」
ということで、本当であれば、
「詐欺というものへの抑止につながる」
といってもいいはずなのだが、そうではないということから、
「詐欺というのは、結局はうまくいかないようになっている」
ということで、言葉を変えれば、
「この世では、悪が栄えたためしなし」
ということになるだろう。
それを思えば。
「山形もそのことをどこかのタイミングで知ったことで、在庫を持つことを反対し、ひょっとすると、社長に進言したのかも知れない」
それが、
「やつらは詐欺集団だ」
ということであろうが、もし、これが普通の時であれば、聞き入れられたかも知れないが、工場としては、
「背に腹は代えられない」
という状況にまでなっているとすれば、
作品名:詐欺事件のフィクション 作家名:森本晃次



