詐欺事件のフィクション
「どうやら、すぐに辞めたと聞きました。そこから、やはり、ケミカル工場を転々としたようですが、なかなか落ち着かなかったという話は聞いたことがありました」
と火事にあった社長は話した。
それを聞いていた刑事とすれば、
「自分たちがリストラした相手のことを、よくここまで辞めさせた後も把握しているものだな」
と考えた。
確かに、辞めさせた相手ということで、そこまで追いかけることは普通はないだろう。
そもそも、
「経営不振」
ということから、泣く泣く首を切ったわけなので、会社側としても、
「辞めさせた相手にかまっている暇などない」
ということである。
実際には、経営を安定させるために、必死にならなければいけない時期ということだろうからであった。
ただ、実際には、
「その男の首を切ってから、しばらくは、経営が大変だったというが、それ以外にリストラをするっこともなく、結構早い段階で、経営も持ち直した」
ということであった。
「詐欺出版社が、在庫を倉庫代わりにこの場所を使いたい」
といってきたのも、工場としては、
「渡りに船だった」
ということのようだ。
実際に、工場の経営が危なかったというのも、あくまでも、
「業界のタイミング」
ということで、その期間を乗り切れば、またうまくいったともいえるわけで、実際に、そうだったともいえるだろう。
そういう意味で、
「辞めさせられた社員」
というのも、そのあたりを分かったのか、工場に対して、恨みが鬱積していたというのは、間違いないようだった。
「ただ、これも噂の域を出ないんですが」
と捜査員が、上司にだけ聞こえる、耳打ちという形で話をした。
「実際に、工場に在庫を持ちたいという話は、工場が危なくなる前からあったようなんです。それに意義を唱えていたのが、例のリストラされた社員だったようで、そのあたりにも何か曰くがありそうなんですよ」
というのだった。
「でも、それだとおかしいよな。在庫を預けたい出版社と、それに難色を示していた人間の利害は一致しないわけなのに、結果としては、二人にとって、得があるような形になったということだよね?」
「そうなんですよ。だから、実際には、在庫が燃えたというのは、偶然だったということなのかも知れないんですよね。ただ、今裁判で争っていることの中に、この、在庫というものをどうするかということも問題になっているんですよね。本来であれば、作者に返すのが当たり前なのに、そうしてしまうと、破綻がさらにひどくなる。そもそも、破綻したことで、債権者としての、債権を放棄するというような理不尽なものもあるくらいですからね。それを考えると、燃えてしまうのは、いいことなのかって思いますよね」
という捜査員に対して。
「だが、工場は、火災保険に入っているだろうからな。そこから、出版社の在庫保障に充てるくらいのものはあってもいいんじゃないか? そうすれば、出版社と工場は、共犯ということになる。一蓮托生ということで、お互いに、いろいろ相談することで、自分たちの難局を切り抜けると思っているのかも知れないな」
ということであった。
自費出版関係の会社は、そもそも、詐欺ということで、訴訟を起こされたうえに、その信用が失墜したことで、自転車操業が破綻してしまい、結果、倒産という憂き目にあっているわけで、その際にも、訴訟は続いていて、大変であるということに違いはないだろう。
なんといっても、
「詐欺というものの末路」
というものが、
「どれほど悲惨なことになるか?」
ということが分かったといってもいいだろう。
この会社は、
「最初こそ、斬新な考え方と、作家になりたいという人の夢を巧みに操ることで、まるで、評論家からも、時の寵児のように言われ、もてはやされていた」
といってもいいだろう。
しかし、
「最初から、あまりにも無理があった」
ということなのか、考えかたとしては、
「ある程度まで儲けたところで、キリのいいところを見計らって、撤退する」
ということをしないといけなかったのかも知れない。
だが、
「最初に想像以上に評判がよかったり、騙される人が多かったりして、儲かった」
ということであれば、せっかくのタイミングで、
「辞めるにやめられない」
ということだったのだろう。
それこそ、かつての、
「大東亜戦争」
のようなものだったといってもいいだろう。
そういう意味では、
「確かに最初から無理があった」
といってもいいかも知れない。
ただ、この、
「無理」
というのは、本当に最初から、
「いいタイミングで撤退する」
と考えていたのだとすれば、そこまで読み切れなかったというのは無理もないことなのかも知れない。
ただ、そもそも、
「詐欺少雨法といのは、いつまでも続けられる」
というものではなく、昔のように、
「局地的な限定された地区での詐欺」
ということであれば、
「ある程度稼げば、後は姿をくらます」
というのが、最善の方法だということである。
泥棒だって、一か所で仕事を一定期間行えば、すぐに他に移るということをしないと、
「いつ捕まってしまうか分からない」
と言われている。
「一か所にとどまることは、悪いことをしているという意識があるのであれば、命取りになるのではないか?」
ということである。
辞めさせられた社員というのは、名前を、
「山形聡」
と言った。
山形は、結婚していた。子供はいなかったが、奥さんと二人で、細々と暮らしていたのだった。
一応、山形は工場の中では、主任クラスで、リストラされる前は、比較的社長に気に入られていたということだっただけに、実際に山形がリストラされた時には、工場の作業員のほとんどが、びっくりさせられたということであった。
山形は、
「リストラされた」
ということで、離婚という憂き目にあった。
それからの生活は実際には荒れていたとも言われている。
酒を飲み歩いていたという時期に、あるスナックの女性が、
「酔っぱらった山形が話をしていたこと」
ということで、
「俺は、やっぱり、最初の工場に戻りたい」
ということだったようだ。
というのは、
「どこに行っても、俺はまわりから白い目で見られる」
といっていたようで、それを聞いていた女の子は、
「山形さんは、かなりの被害妄想なのかも知れないわ」
と思っていたようだ。
捜査員も、
「そっか、じゃあ、首になった後も、山形さんは、最初の工場と連絡を取っていたのかも知れないということかな?」
と聞くと、
「そこまでは分からないけど、首になったというわりには、酒に酔っていても、そんなにその工場の愚痴や悪口を言わないのよ。どうしてなのかって思ったけどね」
と彼女は言った。
それを、捜査員が、上司である捜査主任に話すと、
作品名:詐欺事件のフィクション 作家名:森本晃次



